第25話 夏祭り-カップルと脚
リンゴ飴を時間をかけて食べ終え、俺たちは他にめぼしい屋台がないか探す。
「やっぱ夏祭りと言っちゃ、焼きそばじゃない?」
そう言ったのは掛田さんだ。
「うん、分かる」
「でしょでしょ――。でも、焼きそばだけでもいっぱいお店あって迷っちゃうね」
「確かに」
俺はソースよりも塩が好きなんだよな……。
そのとき言った、こんな独り言は掛田さんにも聞こえていたらしく、「じゃあ、塩のがあるところにしよ」と言ってくれた。
運が良く、歩いていたとこから『ソース・塩ミックス』と書かれた看板が見えて、そこに行ってみることになった。
ソース派掛田さんと塩派俺を、折衷案にするのにちょうど良かった。
「珍しいね、両方を一つのパックに入れるなんて。見たことない」
「俺も初めて見た」
そんな会話をしながら、注文する順番が回ってくるのを待つ。
そしてやっと俺たちの番になって、焼きそばを大盛り一パック頼む。
二人で食べるには、ちょうどいい大きさだろう。
店主がプラスチックの容器に焼きそばを入れていく、そして最後に、上に肉を乗せていく。
なんだか量が、さっきの人たちよりも多い気がする。
と思っていると――。
「仲の良いカップルさんには、おまけだよ」
そう店主が言った。
「いやいやっ、カップルじゃないですよ」
「ありがとうございますっ」
俺は否定して、掛田さんは感謝した。
二人の言い分が違うかったからか、店主が少し困惑した表情を浮かべた。
俺が掛田さんに異を唱えようと横を見るが、さっきよりもにんまりした顔をしているから、言う気は失せた。
「ありがとうございます」
俺は店主にそう言い直して、この場を後にする。
背後からは、店主の笑い声が聞こえた。
人混みの中、掛田さんは俺の横についてくる。
「なんで一回、お店の人に違うって言ったの?」
「逆だよ、逆。否定したかったけど、諦めただけだ」
「ふーん」
そう相槌を打った掛田さんは、「まぁ、いいけど」とよく分からない声色で言った。
/ / / / /
その後焼きそばに加え、フランクフルトやたこ焼きを手に持って、メイン通りからは少し離れたところにあった石に腰掛けた。
屋台の食べ物は、どれでも美味しく感じる。
祭りという状況が味にまで関係してくるとは、驚きでしかないが、なんとなくわかる部分もある。
俺と掛田さん、二人いれば買った分はすぐに食べ切ってしまった。
「そろそろ花火見やすいところに行く?」
「早くないか?」
「いい場所取られちゃうからさ……」
確かに、例えばこの場所は大きな木の枝が頭上にあり空が見にくい。
いざ場所を取ろうとしたときに、そんな場所しかなかったら嫌だ。
「そうだな。じゃあ、行くか――」
「うんっ」
俺は立ち上がり、掛田さんもそうするのを待つ。
そして掛田さんが立ち上がったとき――。
「いっ……」
と、掛田さんは痛そうな顔をした。
「どうした?」
「足の指の間、擦れちゃったみたいで痛い……」
そう言って指をさしている先は、親指と人差し指の間――鼻緒の部分だ。
新品の下駄だと、擦れやすいと聞いたことがある。
「お母さんには心配されたけど、気合い入れて履いて来ちゃったからな……」
「…………」
気合いを入れて――という言葉に、意識がいってしまいそうだったが、それよりも重大なことに考えを向ける。
どうしよう……。
俺が迷っていると、掛田さんは財布の中から長方形の紙を取り出した。
詳しく見てみれば、それは絆創膏だった。
掛田さんは袋を開けて、中身を持った。
そして前屈姿勢になろうとする。
しかし、帯やらで身体が思うように曲がらないらしく――。
「屈みづらい……」
「それなら、俺がする」
俺は思わず言ってしまった。
あとでどんな状況になるか理解したのは、早かった。
「ぇ――」
掛田さんが困惑に似た声を漏らした。
やっぱり、俺に対してでも、足を触られてしまうのは嫌なのだろう。
そう考えたのだが、その後の掛田さんの言葉は想像と異なっていた。
「じゃあ、はい。左の足をお願い」
そして、掛田さんは絆創膏を差し出してくる。
「……あぁ、分かった」
俺が提案したのだから、やっぱり辞めるとかはできない。
俺は絆創膏を受け取り、掛田さんの前でしゃがみ込んだ。
掛田さんは浴衣を膝下20センチほどまであげ、こちらに左脚を伸ばしてくる。
脚の肌は白く、しみひとつない。
爪は綺麗に整えられていて、ペディキュアが可愛らしく映えている。
俺は今からこの足に触れるのだと思い、掛田さんの顔を伺ってみる。
すると掛田さんは硬い顔をしていた。
「なに、早くしてっ」
緊張が混じっているのか、いつもよりも声が高くなっていた。
その姿を見たせいで、俺もより緊張してきた。
「じゃあ、いくよ」
俺はそう宣言して、掛田さんの足に手を伸ばしていく。
絆創膏を貼る場所は――そうか、指と指の間に貼らなければいけないのか。
ただ指に触れるだけでない。
指と指の間に触れるのだ。
「掛田さん、指、開けて」
「うん」
掛田さんは貼りやすいように、指を開いてくれた。
そして、あくまでも貼るために、俺は掛田さんの足を触った。
すべすべと滑らかで、少し温かさを感じる。
なんだか、不思議な気分になる。
絆創膏を指に貼りつけた瞬間――。
「っん……」
と艶めかしい声が、上から聞こえた。
掛田さんのものだとすぐに分かった。
でも、その声は聞こえない振りをしてやり過ごす。
反応してしまったら負けな気がした。
…………。
「はい。できたよ」
ようやく貼り終えられて、そう言って掛田さんの方を見る。
すると、掛田さんの顔が少し赤らんでいた。
「ありがとっ……」
「どういたしまして」
俺も、掛田さんみたいに赤くなっているのだろうな――。
身体が熱くなっているのに気付き、そう思った。
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