第21話 ファーストデートシネマ
バケモノ役の恐ろしい演技の上手さはもちろん、主人公の怖がり方がリアル過ぎて、鳥肌が止まらない。
まだ映画は半分にもなっていないはずなのに、怖さは限界突破のマックス以上状態――。
俺の心臓が、破裂しそうなほどドキドキしている。
しかし横にいる掛田さんを見れば、俺よりもはるかに怖がっていて、暗くてよく見えないが顔にまで出ていた。
それを見ると、なぜか俺が感じていた怖さがだんだん薄れていく。
そのお陰か、さっきまでは食欲がなくて手を出す気にならなかったポップコーンに手が伸びる。
そして一口、二口、と食べていき、三回目、バケツに手を伸ばしたとき――。
なにやら手に柔らかい感触を感じた。
柔らかさの中にも硬い筋があって、冬のような冷たさをしている。
これが掛田さんの手だと認識するには、そう長い時間はかからなかった。
どうしたのかと隣を見ると、うっすら掛田さんが目を細めているのが分かった。
おそらく、怖くて見たくないけど、気になるから見たい――ということだろう。
掛田さんの手は俺の手をがっちり掴んで離さなくなった。
映画に集中していて、他のことを考えられそうな状況になさそうな掛田さんだから、これはわざとではないのだろう。
つまり、無意識に手を繋いだということになる。
すると繋がれた手は、席同士の間の肘掛けみたいな部分と掛田さんの脚の間へと動かされた。
けっして恋人繋ぎではなく、ただ繋いでいるだけなのだが、それだけでも掛田さんの体温と肌を直に感じて胸が高鳴る。
しかも俺の手の甲が掛田さんの太ももに、布越しとはいえバッチリ当たっていて、サラサラとした布の感触の奥に確かにあるとてつもない柔らかさを感じさせられる。
そのせいで、俺は映画のことよりも、こちらが気になってしまう。
日常風景のシーンでは緩く握られているが、驚かしてくるシーンでは強くギュッと握られる。
その強弱が、なんか良い。
そこから映画の最後――エンドロールが流れ始めるときまで、ずっと手は繋がれっぱなしだった。
/ / / / /
映画を観た後は、カフェに行くことにした。
ローカルチェーンのいつも賑わう有名店だ。
ケーキを頬張りながら、掛田さんは口を開いた。
「映画の感想って言ってもさ、ホラーとかって語ることないよね」
「確かにそうだな――」
言われてみれば、こういうのは考察が捗るミステリ系やここのセリフが良かったとか言う恋愛系でするものだ。
「うん、ただお茶するだけになるかも」
「それでも良いんじゃないか?」
「それもそうだねっ、せっかくだし」
納得したと頷く掛田さん。
あと話をするだけでも楽しい――と付け加えられると、無性に嬉しくなってしまう。
掛田さんは俺を嬉しくさせるのが得意すぎる。
「そうだ――」
少し間を置いて、掛田さんは何か思い出したかのように喋り出した。
「――ほんとにありがとね、映画のとき」
「ん? なんのことだ?」
「それは、あれだ……」
掛田さんが口淀んでしまったから考えてみるのだが、一切思いつくことがない。
映画中に感謝されるようなこととは、一体どんなことなのだろう。
「……なんつーか、手――繋いでくれてありがと」
「…………」
ということは、手を握られ繋がれたのは、わざとだったのか?
「怖くてさ、どうしようもなかったけど、割ヶ谷の手で安心できた」
「……おう。それは良かった」
わざわざ口に出されて感謝されると、なんだか照れる。
「なんで安心したんだろね……」
掛田さんが聞いてくる。
「なんでだろ」
「わたし、二つ考えたんだけど――」
「二つ?」
「そう、二つ。それで一つ目は、暖かくて緊張が解れたから」
「なるほど」
多分、これな気がする。
俺はこのつもりで、掛田さんの手を離さないでいた。
しかし、もう一つの考えとはなんなのだろうか。
「で、二つ目は、割ヶ谷と手が繋げて嬉しかったから」
「っ……」
なぜ、堂々とそんなことを言い放つのか。
まるでそれは、俺のことを好きと言っているようだ。
直接じゃないけれど、掛田さんの気持ちがずっしりと伝わった。
「どっちだろうね……」
「さぁ?」
俺は答えを明言しないようにした。
しかし掛田さんは、二つ目が本命の案のように言っていた。
俺と掛田さんで考え方が違えば、受け取り方が違う。
そういうことだろう。
「どちらにしろ――」
――なんでもないときにも、繋いでくれたら良いのに。
という小さな独り言は、気づかなかった振りをする。
なんでこの発言はボソッと言うのか。
さっきの安心した理由の方が、俺としては言いづらい。
掛田さんが、どんな言葉を恥ずかしいと思い、どんな言葉を恥ずかしいと思わないのかが気になった。
その後食事を終えると、地下街や商業施設をうろうろ歩き回った。
掛田さんが持っている肩に掛ける荷物は、ずっと俺がいない方に掛かっている。
それに気づいたのは、俺が掛田さんの手に幾度も目線がいってしまったからだ。
掛田さんを意識し過ぎると、その分細かいところまで見てしまう。
だから、掛田さんの俺を好きという証拠が見つかっていく。
………………。
…………。
……。
そして頃合いになって、どちらからでもなく、そろそろ帰ろうとなった。
帰りの電車では世間話をして、それぞれの帰路についた。
誕生日で遊びに行ったのに、全く誕生日なんて関係ない一日だったな――。
そう思ったのは、家に帰ってからだった。
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