第19話 ハッピーバースデー

 何もせずにぐうたらな生活を送っていると、二日間はあっという間に過ぎ去り、掛田さんの誕生日がやってきた。


 今日、俺は一度夏実の家に行き、そこから一緒に掛田さんの家に向かうことになっている。

 元々夏実と掛田さんの二人でホームパーティをする予定だったらしく、流石にそれを邪魔するわけにはいかないから、俺はプレゼントを渡したらすぐに帰る予定だ。

 中には入らないとしても、掛田さんの家に行くのは初めてで、正直かなり緊張する。


 俺はパパッと支度をして、夏実の家へと向かった。



   / / / / /



「着いたよ」


 俺たちの最寄駅から2駅移動したところにある、少し新しめの住宅街。

 そこの中にある、とある一軒家の前で夏実はそう言った。

 その家の表札を見てみると『掛田』と書かれている。


 ここが掛田さんの家なのか……。

 この中に、本当に掛田さんがいると思うと、さっきよりも緊張を感じてくる。


 ドキドキする気持ちを抑えようと深呼吸をしているとき――。

 夏実はそんな俺を気に留めることはなかった。

 だからか、すぐにピンポーンとチャイムを鳴らした。


「夏実です、遊びに来ました」


 親が出てくることを考慮したのだろう、敬語だった。

 夏実の敬語は珍しくて、少し不思議な感覚だ。


「今から鍵開けるからちょい待って」


 インターフォン越しにそう声がすると、家の中から足音がだんだん大きくなって聞こえてきた。

 その足音が消えたと思えば、ガチャ――と玄関のドアが開かれた。


「おはよ、夏実っ」

「風花もおはよう」


 夏実と掛田さんは、そんなやり取りをした。

 そして、俺はこちらに視線が向いた掛田さんと目が合った。


「――って、割ヶ谷っ!?」

「おはよう。掛田さん」

「おはよ……じゃなくてさ、なんでいるの?」

「まぁ――」


 俺が理由を言おうとした瞬間、夏実に声を被せられた。


「――それはね。晴路も風花のために誕プレ買ったから、渡しに来たからだよねっ」


 すごく夏実の顔が、怖いくらいにニコッと笑っている。

 あと、話を横取りしておきながら、俺に話を振ってくるのはやめて欲しい。

 より一層、掛田さんのためというのが強調されている気がする。

 だが、それはそうだから、縦に頷くしかない。


「うん、そう」

「本当っ? なんかありがと」


 掛田さんが嬉しそうにする。

 すると、俺まで嬉しくなってしまいそうだ。


「じゃあ、これ。ハッピーバースデー」

「――おぉ、なにが入ってるの?」


 照れを隠すように、俺は手に持っていた紙袋を掛田さんに渡すと、掛田さんはその中身を質問してきた。


「ガラスペンと髪のリボン」

「高かったんじゃない? でも、ほんとにありがと、嬉しいっ」


 そう言われると、買った甲斐があったと実感する。

 掛田さんは紙袋を大切に抱えた。


「外で話しててもあれだから、中入って」

「俺はもう帰るから……」

「ぇ、なんで?」

「まぁ、急に来て準備もできてないだろうし、迷惑になっちゃうかなって。あと、家に昼ごはんがあるから」


 至極当然来ると思ってた――と言わんばかりの顔を見せてくる。

 だから、長居しない理由を言うのが少し辛く感じる。


「迷惑なんて思わないけど、昼食があるなら仕方ないね……」


 もっと悲しそうな顔をした。

 すると夏実が、いいこと思いついた――と、俺たちを交互に見る。

 いつもの夏実だから、なにか色恋関係のことに違いない。


「また後日、誕生日でどっかに行くとかどう?」


 案外大丈夫で、拍子抜けしてしまった。

 逆に晴路の家に行ったらどう――? とか、それぐらい言われるのを覚悟していたのに。


「それなら、いいんじゃないか」

「わたしもいいよ」


 俺と掛田さんの返答を聞いて、夏実はうんうんと頷いた。


「じゃあ、決定だね。あとは日時とか決めてちょうだいっ」

「「へっ?」」


 驚きのあまり、俺と掛田さんの声がハモった。

 夏実は来ないつもりなのか?

 と思い返せば、夏実は「夏実・風花・晴路との三人で」なんて言っておらず、これは完全に夏実の策にハマってしまったということだと気づいた。


「私、ちょっと中に入っといちゃうねー」


 そう言い残して、夏実は廊下へと消えて行った。

 残された俺たちはというと――。


「どうする?」

「わたしは別に、割ヶ谷と二人で行ってもいいっつーか……」

「俺も掛田さんが良いなら行くけど」


 相手に選択権という責任を押し付けるのはどうかと思うが、俺には決められなかった。


「――こ」

「ん? なんて?」


 掛田さんの言葉が小さくて聞き取れなかった。


「い――」

「もっと大きく言って」


 掛田さんは大きく息を吸った。


「行こ。……一緒に。誕生日だからさ」


 掛田さんの恥ずかしそうにしている顔を見ると、言葉にはできず、頷いて肯定するしかなかった。

 正直に誘ってくれるなんて、そんなの反則だよ――。

 そう思った。

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