第5話 贈日
そして働き始めてから1ヶ月が経った頃、俺は初めての給料と言う物を貰ったのだが特に使い道が思いつかない。
いや、この金は使っちゃならんのだ。
俺は1日でも早く旅費を貯めて村を出るんだからな。
しかし休日と言うのは一体何をしたらいいのか。
そうだ、雪には普段から飯の世話になっているからな。
この機会に何かお返しでもするか。
思い立ったが吉日、俺は隣町に繰り出していた。
普段仕事で行き慣れた町だが、よくよく考えると俺はこの町の事を何も知らん。
この機会だ、色々散策してみよう。
やはり田舎の村とは違い町にはショッピング施設が立ち並ぶ。
俺はあまりこういう所に来たことがないので人の多さに少し気が引けてしまう。
さっさと雪へのお返しの品を買って帰ろう。
しかし年頃の娘というのは何を貰ったら喜ぶんだ?
自慢ではないが、俺はこの年までまともに女と話したことが無い。
よって何を貰ったら嬉しいか全く分からん。
やはり食い物がいいか?
いや、それは俺が貰って嬉しい物だ。
お礼ならもっと役に立つ物の方がいいだろう。
そう思いふと雑貨店に立ち寄ってみることにした。
店内は小綺麗で客層は若者が多かった。
やはり思った通りだ。
しかし何を買っていいのか分からず俺は店員に尋ねる事にした。
「ちょっと」
「はい?」
「聞きたいんだが、高校生くらいの女の子はどういう物を貰うと嬉しいんだ?」
「えっと…」
不躾な質問に店員は困っている様子だ。
ここはフォローしておこう。
「いや、普段ちょっと世話になっている人がいてな。
お礼に何かプレゼントをと考えているんだが、何をあげれば良いのか悩んでいるんだ」
「プレゼントですか?…」
「ああ」
「それでしたらアクセサリーなんて如何でしょうか?
高校生くらいの女の子でしたら喜ぶと思いますよ」
「ああ、参考にするよ。恩に着る。」
そうは言われたもののアクセサリーなんてどれを選べばいいんだ?
あいつがアクセサリーを付けているところなんて見たことが無いが本当に喜ぶのか?
ピアスにネックレス、指輪など色々見たがよく分からんと言うのが正直な感想だ。
結局何も買えずに困っていると見覚えのある姿が目に映った。
「雪、なんでこんな所に?」
「優真さんこそどうしたの?」
「いや、ちょっと買い物にな」
「そうなんだ、じゃあ私と一緒だね!優真さんは何買いに来たの?」
「いやちょっと暇なんでぶらついてただけだ」
「えー、今買い物に来たって言ってたじゃん!ほんとは誰かにあげるプレゼントを探してるとか?」
「それは…」
こいつ、変なところで感が鋭いな。
しかしバレてしまったらプレゼントと呼べるのだろうか?
ええい、ままよ!
この際自分で選んでもらおう。
「ああ、実はそうなんだ。
普段世話になってる人が居てな、その人にお礼をと思っているのだが、女心と言うのはよく分からなくてな。
何をあげたらいいのかさっぱりなんだ。」
「そういう事なら、私もう用済んだしプレゼント選び手伝ってあげる!」
「お前なら何を貰ったら嬉しいんだ?」
「うーん、特に欲しいものって聞かれたら思い付かないけど…アクセサリーなんて貰っても私付けないし
おしゃれな写真立てとか貰ったら嬉しいかな!」
「そ、そうなのか…」
危うく無駄なプレゼントをするところだった。
雪とたまたま鉢合わせたのは不幸中の幸いだったな。
「うん!大切な人との思い出は色褪せないからね!
でもその人がずっと傍に居てくれることが一番のプレゼントかなあ…」
雪が遠い目をして言う。
「なに年寄りみたいな事言ってるんだ。
まだ若いんだからこれから沢山思い出を作ればいいだろう。」
「うん、そうだよね!
優真さんと思い出作り出来たらいいな…」
「なんか言ったか?」
「ううん!なんでもないの!
あ、このロケットなんて素敵!中に写真を入れておけるの!思い出の写真を入れておけたらいいなあ」
「ならそれ買ってやるよ」
「え、いいよ、悪いし」
「いや、いつも飯の世話になってるからな。
少しはお返しさせてくれ」
「ほんとにいいの?ありがと!嬉しいな」
俺は雪にネックレス型のロケットを買ってやる事にした。
値段としてはお手頃なんだが本当にこれでよかったのか?
まあ、本人が喜んでるから良しとするか。
「本当にありがとう!
このロケット、大切にするね!
あ、そうだ折角だし写真撮りに行こ!
ちょうど近くにプリクラがあるんだ!」
「そんな年頃の学生みたいなことできるか!」
「優真さんだってそんなに歳変わらないじゃん!
いいから一緒に撮ろ!」
「ああ、分かったから服を引っ張るな」
俺は雪の勢いに圧倒され、なすがままゲームセンターに入る。
プリクラコーナーには女子高生ばかりでなんとも気まずい。
それにプリクラと言うのはどうも落ち着かん。
中に入ったはいいがどうしていいか分からずまごついてしまう。
「いいから優真さんもっと笑って!」
雪が楽しそうにポーズを決めるので仕方なく俺も真似をする。
何枚か写真を取った後しばらくしてプリクラ写真が取出し口に出てくる。
それにしてもなんで若者達はこんな箱の中に入ってわざわざ写真を撮るんだ?
しかも出来上がった写真なんてまるで別人だ。
困惑する俺とは裏腹に雪はご機嫌に写真に落書きをしている。
「さっきから何を書いてるんだ?」
「まだできてないから見ちゃだめ!」
「"ずっと一緒に居てね 雪より"」
「見ちゃだめって言ったのに!
もう、優真さんの分のプリクラ没収!」
「あ、ああ…」
本当に台風みたいな奴だ。
それから俺と雪はプリクラ機のあったゲームセンターで夕方まで遊び尽くした。
と言うか半強制的に付き合わされたのだ。
雪が何かをしたいと言えば勢いに負けていつも巻き込まれてしまう。
きっとそういう運命なのだと思い俺は考えるのをやめた。
「今日は色々とありがと!楽しかった!
ん?私が優真さんの買い物に付き合ってたんだっけ?まあいいや」
雪は本来の目的の事をすっかり忘れているようだった。
しかしこれで良いんだ。
目的は達したんだからな。
「ちょっと疲れちゃったから私帰るね。」
「ああ、気をつけて帰れよ。」
「またね!」
俺と雪は手を振り合いそれぞれの帰路に着く。
何だかんだ悪くない1日だったと振り返って思わず頬が緩んだ。
そして翌日、仕事を終えいつもよりも遅い時間に俺は待ち合わせ場所に向かった。
到着した頃には既に日は沈みかけていた。
流石に雪も今日は帰っているだろうかと思ったがずっと待っていたんだろう、彼女は一人で震えていた。
「悪い、仕事が立込んで遅くなった。」
「ううん、大丈夫。今日も来てくれたんだ。」
「ああ、約束だからな。それより寒かったら無理に待ってなくてもいいぞ」
「ほんとに平気だよ!」
強がる彼女の顔は夕焼けのせいか、いつもより紅潮しているように見えた。
程なくして俺達は解散する。
いつもの雪なら元気よく手を振って帰るのだが今日はやけに大人しかった気がした。
更に翌日も仕事の合間を縫って雪に会いに行ったがその日は雪の姿がなかった。
そんな事もあるさ、と思いあまり深く考えていなかったんだがそれから何日か経っても雪が待ち合わせ場所に現れる事はなかった。
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