005:1-A1-4

 自己紹介、そして体育館での入学式が終わり、再び教室に戻ったわたしたちは、時間割や教科書などのチェックをして、選択授業やアンケートなどのプリントを受け取り、そのまま下校することになった。アンケートのほとんどは、義肢ぎしに関するものだった。


 ここ、江部槍科学技術高等学校の生徒たちは、身体の一部に義肢を装着している者ばかりだ。

 わたしたちの暮らす都市『江部槍えべやり』は、人口は五千人程度の小さな都市で、義肢に使用される人工神経である光繊維神経系や、脳細胞接続部と呼ばれる脳細胞と光繊維神経の接続部位に使われる『CORELEMENT』、あるいはたんに『核』と呼ばれている物質の産出都市だ。

 人口のうちの大半が研究者及びその家族たちで占められていると言われており、また、ほとんどの人間が義肢を装着している。そのためか、『人体実験都市』と外部の人たちの一部には呼ばれていることは知っていた。


 この都市のもう一つの姿、『エヴェランス・オンライン』と呼ばれているヴァーチャルワールドでの生活も重要であり、実際そちらで生活費を稼ぐ人も少なくない。

 PCなどの端末から接続することも可能だけれど、脳細胞接続部に埋め込まれたニューロチップを使い、光繊維神経を介して携帯端末と接続し、義眼の仮想ディスプレイに出力することで、どこでもエヴェランス・オンラインに接続できる。

 ブレインダイレクトコネクションと呼ばれているこの方法は、都市の中央にある『治安維持管理局』と『中央研究施設』の許可が必要で、住民票のIDと義眼のシリアルナンバを登録しないとできない。そのために必要である高性能な義肢は高価であるため、誰でも接続可能というわけにはいかないけれども、少なくともこの学校に通う生徒は全員その基準をクリアしているはずだ。

 そのため、授業には、『義肢基礎理論』、『人工神経細胞応用』、『BDCブレインダイレクトコネクション実技』など、義肢に関する教科や義肢を装着していることが前提となったものが多い。


「ねえねえ、小絹ちゃん、一緒に帰ろう!」

 とてとてと近づいてきたハートちゃんが、すぐ隣まで来て笑顔で言った。

 明るい子だな、と思い、

 仲良くできるかな、と不安になり、

 また、期待もする。

「うん、そうだね。そうしようかな」と、わたしは応えた。


 ふと前を見ると、秋月さんがこちらを見ていた。

 何か用でもあるのかと思い、わたしは話しかけようとしたけれど、すぐに向こうを向いてしまった。

 たまたま目があっただけだろうか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る