第11話「告白(ひとつ目)」
「コンビニ……?何か買うの?花本さん」
「少し待ってて。すぐに戻るね」
「う、うん……」
花本さんにそう言われ、私はひとり、コンビニの傘立ての近くにぽつんと立ち、花本さんが店内に入っていく背中を見送った。
(何を買うんだろう……?)そんな疑問を浮かべたまま、スマホを触ったり空を眺めたりして、花本さんの帰りを待った。
「お待たせ。待たせた?」
「ううん。大丈夫。何を買ったの?」
買い物を済ませた花本さんは、右手に財布を、左手には小さなビニール袋を持っていた。大きさからして、そこまで量があるわけではなさそうだ。
「はい。これあげる」
「ん?これって……?」
花本さんに手渡されたもの。それは、私と花本さんが初めて会った日、一緒に食べた同じアイスだった。でも、どうして今……?
「まぁ、これ食べながら少し涼もうよ」
「え……?花本さん……?」
何が何だかわからないまま、花本さんがアイスに口をつけるのを真似るように袋から開けた。キンキンに冷えたあずきの味が、暑さに溶けていくように口に広がる。この硬さや味が、好きだった。
「おいしいね」
「うん。私、これ好きになったの」
「好きになった?」
「そう。好きだった、じゃなくて、好きになった」
「どういうこと……?」
「姫野さんがあの日くれた時、初めてアイスの美味しさを知ったの。そして、人の温かさも知った。ずっと、知らなかったから……」
花本さんは、パキンとアイスを噛みながら言った。美味しそうに微笑むその横顔、いつ見て本当に愛おしい。包み隠さずに言えたなら、この顔を、これからも見ていたい、見せてほしい。
「ふふ。まるでアイスを初めて食べたみたいな言い方。大袈裟なぁ」
私は冗談っぽく笑いながら言った。
「いや。本当に、初めて食べたの」
「……え?」
しかし花本さんの答えは、やや寂しく、深刻というか、暗かった。和やかに思えた空気は、ピリッと曇りかけた。 花本さんは私の方を向くと、少し深呼吸して、それから口角をあげて言った。
「姫野さんは悪くないから、悲しまないで聞いてほしいな」
「う、うん……」
「気持ちを伝えるためには、話しておかなきゃいけないと思って」
そう呟くと、花本さんはガラスの壁に寄りかかって、左の靴下を静かに下げた。それを見て、私は目を見開いた。
「え……!?な、何これ……?」
「私ね、ずっと、愛を知らずに育ったきたの……」
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