第7話「とくん、とくんと、」
「花本さんもおつかいに来たの?」
「おつかいじゃないよ。個人的に買いたいものがあって」
「そうなんだ」
花本さんはそう言い、近くにある100円ショップの方を眺めた。この街に住んでいる人の多くが使っている場所で、日用品や軽い食品などが揃っている。
「あそこの100円ショップ、好きなんだよね。色んなもの売ってて、雑貨屋さんみたい」
「あそこはもう100円以外も売ってるから、実質100円ショップから離れてる気がするな…」
「確かにね。まぁ、それも含めて便利なのは確かだからね」
私たちは100円ショップの話や明日の授業の話、それとは関係のない話をしながら、真っ暗になるまで会話に花を咲かせた。
私と話をしている時の花本さんの顔は、さっきの寂しそうな顔が嘘のように、とても楽しく、嬉しそうだった。
「あ、そろそろ帰らなきゃ!」
腕時計を見た時、時刻はすでに6時を過ぎていた。
「あ…もうそんな時間なんだ…」
「また明日学校でね!じゃ!」
私は花本さんに手を振りながら、駆け足で家へと駆けだした。
この時の花本さんの顔も、何だか寂しそうに見えた…。
夕食やお風呂などを済ませた私は、学校からの宿題を片付けていた。
リビングには、GReeeeNが流れている。最近の夜はYOASOBIを聴いていることが多かったため、この日は久々のGReeeeNだった。相変わらず、歌詞が心に寄り添ういい曲だ。
そうしてあらかた宿題を終わらせたとき、テーブルの上のスマホが震えた。
「こんな時間に…誰なんだろ?」
スマホを覗くと、そこには花本さんの名前があった。私は通話ボタンを押し、通話を始めた。
「もしもし?花本さん?」
「もしもし。急に電話してごめんね」
電話に出たのは花本さんだった。
口調は夜遅くだからか、少し寂し気。
「大丈夫だよ。どうしたの?」
「いや。話し足りなかっただけ。忙しい?」
「あぁ、それなら大丈夫だよ」
「よかった…」
花本さんは落ち着いた口調に戻り、数時間ぶりの会話を始めた。
私は会話を楽しみながらも、少し気になっていることがあった。それは、花本さんが家族の話をし始めた時に、ふっと悲しそうな顔をしたり、笑顔が少し曇ったりすることだった。
もしかして、何か上手くいっていないことがあるのだろうか……?
そんなもやもやが漂う中、会話は続いていた。
「ありがとう。満足したよ」
どれくらいかの会話が終わり、花本さんは満足そうな声を聞かせてくれた。
「そっか。それならよかった。また明日ね」
「うん。また明日!」
と言って、電話は終わった。
私は1人になったリビングの中で、花本さんの声の余韻に浸っていた。
あの透き通るような声が、いつまでも鼓膜に響く。
その度に、胸がとくん、とくんと、優しく鳴る。
「…宿題も終わったし、寝るか」
私はリビングの戸締りを確認し、ガスの元栓を確認し、寝るために2階へ向かった。
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