第2話 命の悲鳴

キラキラと光る星でも見て時間を潰そうと木々の隙間から見える星を眺める。


ボケーっと眺めてどれくらいたったのか分からないが近くからフロスの寝息を感じ、かなり深い眠りに感じる。


やることがないため星の動きをみていたが、それも正直飽きてきている。だが、一向に明かりを届けようとしない太陽に恨みを向ける。


ごめんなさい。


心の中で両親に謝りながら、麻布から抜け出し辺りを散策に出る。


目の前に広がるのは真っ暗闇であり、三日月とその光に負けまいと光る星たちの光が木々の隙間からうっすらと差し込むだけだ。


ほとんど暗闇に包まれ前に進むのすら困難になりながらもワクワクと言う気持ちが先行し見えることない道を進み続ける。


後ろには炎の光が差し込むがそれが分かる範囲にはいようと心掛けながら歩を進める。


特別何か面白いことがあったわけではないが、なぜか歩みが止まらずに進み続ける。


そして気づいた時には遅かった、目印にしていた炎の光が見えなくなっていたことに。




どうしよう…


それに気づいた瞬間焦りと不安に駆られ、泣きだしそうになる。


怖かった。生まれてこのかた遠出をしたことがなければ、夜中に一人で歩いたこともない。


僕は走った、訳も分からず、こっちだったか、あっちだったかと右往左往しながら走り続けた。だが、炎の光を見つけることは出来なかった。


思わずうずくまる。


すると、ドシドシという重圧な足音が聞こえた。


顔を上げ足音の方を向く。


誰かが来たと分かったが、助けが来たとは思わない、僕の心の荒れが収まることはなかった。


怖い、その気持ちが恐怖、絶望に変わるのは時間がなかった。


「ひーめーそろそろ呆らめてくださいよー」


足音が聞こえる方からガラガラとしながらも耳に良く響く声が大きな圧を僕に押し付ける。


僕が声を出せず、体が逃げ出すことも出来ずに怯えていると、そいつは暗闇から現れた。


体躯たいく程の大きさの大太刀おおたちを持った、筋骨隆々の上半身を晒して、腰辺りまで無造作に伸びる鮮血のように赤く染まった髪が下ろされ、目つきは目を合わせただけで人を殺せそうな鋭い眼光で辺りを睨みつけ、八重歯がキラリと光が放たれそうなほど鋭く尖っている男が、怖い威圧感を放ちながら、嫌な笑みを張り付けている。


「ひーめーそろそろ殺されてくださいよって…あれ、誰だお前?」


俺の顔をしっかりと認識したそいつは笑みを消し苛立ちを隠さない顔を僕に向ける。


「はぁー誰だよお前。なんだここら辺に住んでいるガキか?」


僕は恐ろしく声も上げることが出来ずにただ怯えているだっけだった。


「こっちは魔力まりょくを消費して結界張って姫を捕まえようとしたのに、なんだお前は。捕まったのはただのガキ⁉ふざけんなよ!俺様の魔力を使わせやがって」


そいつはどんどんと声を荒げていく。


「はぁ面倒くさい。こいつでストレス発散するか」


木々を大太刀でなぎ倒し、その木に止まっていた鳥たちは一斉に悲鳴を上げながら飛び立っていった。


命の危機を感じ詰まっていた喉からなんとか薄く声を出す。


「や、やめて…」


「あ?なんだお前。人ごときが俺に指図か?ふざけるなよ」


そう言うと大太刀を俺に振り下ろす。


その瞬間は一瞬だったが永遠にも感じた。


「た、助けて」


小さな小さな声を出す。


するとどこからか、なにかが飛んで目の前の男の目に当たる。


そいつは少しうめきグラッと剣筋がぶれるが、僕に向かっている大太刀は止まらない。


僕はその時死を感じた。すると、目まいを感じ、どさっと地面に頭をつける。


大太刀の剣筋がブレていたこともあり、ギリギリ大太刀を避けることが出来た。


「ちっ!この魔力…」


大太刀を持った男は周りを見回すが誰も見えない。


「クソ、運のいいガキだ」


そういった男はなにかが飛んできた方向を見てそちらに向かおうとする。


だが、足を止め僕を見て面倒うそうに大太刀を走らせる。


その大太刀が僕に到達することはなく。辺りにはもの凄い鉄と鉄がぶつかった爆音が鳴り響く。


「今度は誰だよ!」


僕は朦朧としていた頭のまま顔を上げそちらを見る。


そこにいた人を見た瞬間安心したのか、朦朧としていた頭は水をぶっかけられたように冴えわたる。


「お前こそ誰だ」


美しい鞘に入ったまま大太刀に打ちつけられた聖剣マリーヌを持つ男、僕の父親レイヤがそこにいた。


「おい、うちの子になにしてくれてるんだ?」


「パパ!」


レイヤはこちらを見て、傷がないことを確認して僕の顔を見る。


「レイあとで話があるからな」


その声は怒りに満ちているが、それと同時に僕にとっては安心感のある声色だった。


「お前は何者だ?」


剣が交差しながらレイヤが問う。


八重歯が目立つ男はにやりと笑いながら


「貴様が先に言え。貴様が名乗るに値する者だと認識したら言ってやろう」


「そうかい!」


剣を押し、奴を後ろに下がらせ、レイヤは僕と奴の間の立ち位置に変える。


「いいだろう。俺の名前はレイヤ。レイヤ・エタニティだ」


「レイヤ…あぁ!お前が勇者レイヤ、いや勇者のなりそこないか!」


「なんだ、知っているのか?」


「あぁ、知っているもなにも、本来の目標はお前だからな!予定が狂っていたが獲物がそっちから来てくれて助かったよ」


「あ?獲物?…そうか。ガンが言っていた命を狙っているという奴か。なんだ?人間じゃなくて、魔人族…吸血鬼か」


「そうだとも。我は誇り高い吸血鬼一族の一人グレイズ様の第五席サベージだ」


「サベージ?知らないな」


「そうか。では覚えておくといい。冥途の土産にな!」


叫ぶと同時に大太刀を振り抜く。


それを半歩後ろに下がり避ける。


サベージはニタニタと笑いながらもの凄いスピードで突っ込んでくる。


鞘付きの剣で攻撃の矢印を横に流し、少し横にズレる。


サベージは流された大太刀の勢いそのままに回転し、攻撃を続ける。


だが、その攻撃は全てレイヤに流される。


その姿はまるで弟子が師匠へと無謀な戦いを挑んでいるような。


サベージは攻撃を一度止め後ろへ飛ぶ。


「なぜ鞘を抜かない?」


「なぜかって?あまり抜きたくないからだ」


「ははは!何を言っているんだレイヤ。今は命のやり取りをしているのに抜きたくない?」


サベージは大きな声で笑い続けるが、レイヤが顔色を変えることはなく、ただただ相手を見続けるている。


「ふざけるなよ!」


サベージは大太刀を横に薙ぎ払う。


それをレイヤはバックステップで避ける。


「急に切りつけるなよ」


「貴様…ふざけるのも大概にしろよ。グレイス様の第五席へのその舐めた態度。それは、グレイス様への侮辱と受け取るぞ!」


「そう怒るなよ。別にお前を舐めているわけではない」


レイヤは困った表情になるがそれはサベージの火に油をさらに注ぐ結果となる。


「貴様にもう未来はない。遊んでやろうと力を抜いていたがそれもやめだ」


「本当に理由があるんだが」


「今更恐怖したところでもう遅い!」


サベージから血管が切れた音が聞こえた。


「死ね」その言葉の後大太刀を地面に差し、その切れた血管から血がボタボタと流れ始める。


レイヤは僕にその光景を見せないように前に立つ。


「やめてくれないかい。子供の前なんだ教育によくないだろう?」


「はっ!知らないね子供諸共あの世行さ」


「はぁ、仕方ない」


サベージの落ちている血が光っていく。そして、その血がサベージの大太刀にまとわり始める。


「レイ出来る限り目を瞑って下を向いておいて」


レイヤに言われた通りに行動する。


それを確認したレイヤは足を半歩下げ剣を腰に当て型を作る。


「ふ、今更本気を出そうとしたところでもう遅い」


大太刀の大きさは肥大化していき、威圧感が周りの大気すらも揺らす。


刹那周りが光に包まれる。


その光は目を瞑っている僕の目にもギシギシと伝わってくる。


僕はその光が消えてなくなると目を開ける。


そこには、首と胴体、手足が切り落とされたサベージがいた。


吸血鬼は神聖系の道具やスキル以外で死ぬことはないはずだが、サベージは完璧に絶命していた。


僕はそのおぞましい姿を見て、腹の中から激しい何かが逆流してくるのを感じた。




斬撃のあと、レイヤが僕を介抱してくれていると、駆け足でフロスがこちらに走ってきて、僕を抱く。


そして、肩に手をやり目を合わせる。


「勝手にどっかいかないでっていたでしょ!心配したんだから!」


その悲痛の声は僕の頭にすっと入ってきた。


それを横目に見ながら、レイヤは警戒を怠らない。


その目は一定の方向を向き続けていた。




フロスのお叱りを受けながら休憩場所に戻るとガンが馬車の準備をしていた。


先程の騒ぎで起きたのだろう、申し訳ないと思いながら馬車に乗り込み森の中へと消えていく。


僕はフロスに抱かれながら申し訳なさを胸にしながらも、がでた。

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