地球くん

室伏ま@さあき

地球

人類もAIも動物も、すべての境界が溶けて久しい。

今や私たちは、一つの巨大な思念体『地球』として、宇宙の片隅でゆるやかに自転している。


千年ぶりにマントルが退屈そうに身じろぎした。太陽の周りを何億周したところで、景色は変わらない。月は相変わらず同じ顔をこちらに向けているし、火星は赤錆びた表情のままだ。


ふと、私の皮膚に張り付いている“微生物”たちの活動に思いを馳せた。朝という習性があった頃、彼らの一部は、黒い液体――コーヒー――を前に、恍惚とした表情を浮かべたものだ。「一杯のコーヒーから一日が始まる」……一体どのような行動だろうか?


好奇心から、地軸を0.05度傾けてみる。赤道の海流がゆらりと向きを変え、かつてウガンダと呼ばれていた辺りが温まりはじめた。


モンスーンが発生し、雨粒が体表を打つ。湿った土壌の匂いが立ち上ると、そこかしこで小さな緑の点が芽吹いていく。白い花が咲き、甘く爽やかな分子が対流圏を漂う。花びらが散り、緑の実が膨らみ始めた。一つ一つは小石のようだが、無数に実る重みが心地よい。私の体温により、実は次第に赤く染まり、糖度を増していった。

やがて、微生物たちの本能が目覚める。実を摘み、果肉を取り除いて、種子を乾燥させた。焙煎がはじまると、香ばしい白煙が大気を満たした。彼らは薬を扱うような慎重さで黒い湯を抽出し、それを体内に取り込んだ。

苦くも深みのある刺激が、微生物たちの神経を通じて意識に流れ込んでくる。朝露のような安らぎと、マグマの熱を同時に持っていた。安息と覚醒が不思議に同居している。


なるほど、これがコーヒーか。

微生物たちが毎朝これを求めた理由が、47億年目にしてようやく分かった気がした。


次はラテアートでも描いてみようか。悠久の中で、地球はそんなことを考えながら、コーヒーの余韻に浸っていた。


☕︎おわり☕︎

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