第二夜『如月:凍てつく気配、ほどける恋文』
まだ冬の真ん中のはずなのに、どこか春の気配が忍び寄ってきたような夜。
如月は、音を立てずに心の奥に降り積もる月。
頬をなぞる風は冷たいけれど、その冷たさが、逆に胸の奥の何かを動かしてしまう。
机の引き出しにしまったままの、渡せなかった手紙がある。
言葉にすると壊れてしまいそうで、言葉にしないでいた一行——「また会えますか?」
書いたはずなのに、自分でも忘れたふりをしていた。
だけど今夜の月は、あの時と同じ形で、静かに空に浮かんでいる。
遠くで水音がする。
雪解けだろうか、それとも季節がほどけ始めた証なのか。
見えない誰かが心に近づいてくるような、そんな予感がする。
恋だった。きっと恋だった。
けれど恋になる前に、冬になってしまった。
手渡せなかった言葉は、今もまだ凍ったまま、
でも月明かりの下では少しだけ、溶け始めていた。
背中の上に、そっと一輪の光が落ちる。
如月の夜は、気配で満ちている。
それは春の兆しであり、まだ届かない想いでもある。
今なら言えるかもしれない——と思いながら、
もう少しだけ、夜風を吸い込む。
🌕 月夜のコラム帳 ミエリン @mie0915
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