第3話 あくる日の 綺麗を探す 星ふたつ
「綺麗なもの、私もみたいなぁ……」
名花がニコニコしながら言った。
「見たいなら、探しに行けばいいだろ」
多々子がヘルメットを被る。
「うんっ!」
「いい返事だ。さあ、もう行きな」
「時間は有限なんだ、あんたの好きな綺麗なものも、時間に縛られた存在のはずだぜ」
バイクのエンジンが始動する。
とととと、と呼吸する鉄を撫でる多々子。
「ねえねえ、名前は? 私、有的名花っていうんだ〜!」
「月似多々子だ」
「たこちゃん!」
「たたこだ。足の一本や二本、片手で数えられるだろ」
「一緒にね、見たいものがあるんだ〜」
「私にはない」
「私にあるんだよ〜」
「いい性格してるな、あんた」
「褒められた〜」
「あとは人の話を聞くことができれば最高なんだが、努力できないか?」
「頑張るっ!」
「よし、じゃあな」
バイクが騒ぎ出した。
「あ、待って待って!」
「なんだ、危ないぞ」
「一緒に見たいものがあるの」
「そうか」
「ダメ?」
「私には独りで見たいものしかない」
「それはわかるかも〜!」
「いい子だ。じゃあな」
またまた、バイクが騒ぎ出す。
「待ってぇ!!」
名花が多々子のスカートの裾を掴む。
「私のパンツが見たいのか?」
「見たい! いいの!?」
スカートを掴んだ名花の手が持ち上がった瞬間、多々子のしっぺが炸裂した。
夢の跡。
「冗談だ、少しは遠慮しろ」
「学校の屋上に行くんでしょ?」
「なんだと?」
「学校の屋上だよ〜」
「行かないが」
「あそこね、星がすっごく綺麗に映るんだよ〜?」
「悪いやつだな、忍び込んでるのか」
「ううん、今日初めてたこちゃんと一緒に行くんだ〜」
「そりゃ素敵だ。墨を吐かれないようにな」
「たこちゃん、墨吐けるの?」
「いいか、よく聞け。たたこが吐けるのは毒だけだ。わがままな電波少女に対しては特にな」
「すごい! 毒吐けるの!?」
「あんた、わざとやってんのか?」
「わざと……?」
「もういい、バイクから離れろ」
「よいしょ……」
「おい」
「出発〜!」
「降りろ」
「どうしてもダメかなぁ……」
「そんな顔してもダメだ。ヘルメットがない」
「え〜……たこちゃんと一緒に詠いたいのに……」
「うたう? カラオケに行きたいのか?」
「言の葉に〜綺麗なものを、響かせて〜」
目を丸くして、肩をがっくりと落とす多々子。
「……はぁ……とんでもないやつの家に忍び込んじまったみたいだな……」
「たこちゃんの詩、聞きたいなぁ〜」
「いいぜ、私の負けだ……いい根性してるぜ、ほんと……」
多々子は大きくため息をついて、自分のヘルメットを名花にかぶせる。
「ふわぁぁ……頭重いよぉ〜……」
「我慢しろ。あと、その乗り方じゃダメだ。しっかり跨がれ……そう。そしたら、私のお腹をぎゅっと抱きしめて離すな、絶対だ、いいな?」
多々子は普段より強めの語調で指示を飛ばした。
「うわぁ、たこちゃん、私より背ちっちゃいのに、すっごく頼もしぃ〜」
「ほっとけ」
「じゃあ行くぞ。まずは私のお気に入りの場所に連れて行ってやる。裏道で行くからちょっと揺れるぞ」
「うんっ!」
「……やれやれ……とんだおてんば電波少女だ」
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