誰でもなくても、記憶に刻まれる——

春風とともに赴任してきた介護助手・山下健吾は、力仕事を黙々とこなす真面目な男だった。
休憩時間になると姿を消し、私生活を尋ねると巧みに話題をかわす彼。
そしてある日の夜勤明け、弁当とロッカーの現金が消え、山下も姿を消した。
偽造された履歴書、偽りの電話番号——平穏だった職場に疑念の波紋が広がり、「彼はいったい何者だったのか」という謎が頭をめぐる。

気配りができ頼りになる若者は、何を思い、消えたのか。
金木犀の香りとともに残るのは、人という生き物の複雑さと、解けることのない疑問から滲むリアリズム。

職場で起きる静かなミステリー、読み終えたあとも余白が想像を誘い続ける、おすすめの一作です。

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