君とカフェとオムライス
竹乃娘- ちくのこ
第1話 窓際の空席
第1章 彼女の放課後
これは、側から見たら日常なのかもしれない。
けど私にとっては少し違う気がする。
特別でもない、でも確かに「何か」が残る、そんな放課後の話。
町外れのカフェによく訪れる。
入って左奥、奥から一つ手前にある窓際の2人席。そこは、私の特等席だ。
木々とコーヒー豆の香り、食器の音。
他のお客さんの笑い声や静かな会話。
そのすべてが、今日も変わらず心地よい。
メニューに目を通すと、ふと視線がオムライスのところで止まった。
でも、いつも通り私はカフェラテだけを頼む。
その光景も、すっかり日常になっていた。
誰も座らない向かいの席には、なぜか懐かしさが残る。
何か大切なものを、そこに置いてきてしまったような気がして、
少しだけ心が震える。
その理由は、まだわからない。
けれど私は、今日もこの空気に包まれていたいと思う。
どのくらい時間が経ったのだろう。
そろそろ帰らなきゃ。
今日の夜ご飯、何にしようかな。たまには…オムライスがいいかもしれない。
第二章 カフェの窓辺から
木の香りに包まれたカフェは、今日も穏やかだった。
学生時代からアルバイトを続け、いまではこの店の社員として働いている。
あの頃から変わらない、私にとっての居場所。
今日も、あの子が来ている。
高校生くらいの女の子。毎週のようにこの店を訪れては、いつも決まって同じ席に座る。
注文するのはカフェラテだけ。
ただ座って、外を眺めたり、本を開いたり。
静かな時間を過ごして、やがて帰っていく。
最初に見かけた頃は、もう一人いたはずだった。
よく二人で来ていて、オムライスを嬉しそうに食べていたのを覚えている。
ほんの数ヶ月前のこと。
二人の笑顔は、この店の空気まで柔らかくしていた。
けれど今では、その隣の席はずっと空席のままだ。
カフェラテを頼むのも、いつも通り。
でも、メニューのページがふとオムライスで止まったこと、私は見逃さなかった。
彼女の目の奥で、何かだけがわずかに揺れていた気がした。
彼女が帰ったあと、静かになった席をふと見つめる。
そこには誰もいないけれど、何も消えていない気がした。
まるで、何かがまだそこに、座っているかのように。
君とカフェとオムライス 竹乃娘- ちくのこ @V-cikunoko5400
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