最推しに感じる既視感には、たぶん理由がある
香島鹿
第一章
第1話「断罪されるのは、ちょっと待ってください!!」
私が目を覚ました場所は――煌びやかな玉座の間だった。
高い天井。金の装飾が施された壁。緋色の絨毯に囲まれて、私は中央に突き出されていた。
視線を上げれば、壇上には金髪碧眼の王太子と、怒りに染まった顔の貴族たち。
そして私は、彼らに囲まれたまま、断罪されようとしていた。
「セレナ・ヴァレンティナ。
王太子殿下の婚約者でありながら、正妃候補であるレイナ嬢に嫉妬し、
陰湿な嫌がらせを繰り返した……その罪、認めるか?」
え、なにこれ。
ていうか「セレナ・ヴァレンティナ」って誰?
……あ。
このシチュエーション、知ってる。
乙女ゲーム『グローリア王国の花嫁たち』。
その中で、悪役令嬢が処刑されるルートのクライマックスだ。
その悪役令嬢の名前は――セレナ。
つまり、私が今いるのは、ゲームの中の世界。
しかもよりにもよって、セレナ本人に転生しているというわけ。
うわあ……マジか……
しかもタイミングが最悪すぎる。断罪イベントって、ゲーム中でも死に直結するやつじゃん。
「な、何かの間違いですわ!」
「わ、私はそのような……っ」
口が勝手に喋ってる!?
やばい、思うように身体が動かない。ゲーム通りの台詞が、勝手に出てくる。
私、ここで死ぬの?
いやいや、やだやだやだ。死にたくない。
せっかく推しのいる世界に来たのに、出番ゼロで即退場なんてゴメンだ!!
そのとき――
「お待ちください、王太子殿下」
低く通る、落ち着いた男の声が響いた。
会場がざわめく。私も顔を上げて、その声の主を見た。
……その姿は、あまりに見慣れていた。
銀の髪。整った顔立ち。鋭い眼差し。
白銀の軍服に身を包んだ、美しい騎士。
ライラント・グラディオス。
乙女ゲームに登場する、最も攻略が難しいキャラ。
王国最強の騎士にして、原作ではヒロインを一途に守る孤高の男。
でも、悪役令嬢ルートでは……私を断罪する側だったはず。
なのに、どうして今、私をかばうように前に出てくるの?
「この場での断罪は尚早です。
私は彼女に、話を聞く時間を与えるべきだと考えます」
「……グラディオス卿?」
「それに、誤解の可能性もある。
セレナ嬢が本当に罪を犯したかどうかは、まだ断定されていません」
まっすぐに私を見て、ライラントはそう言った。
その瞳は……どこか懐かしさを帯びていた。
私のことを、まるで前から知っているかのように。
……そんなはず、ないのに。
「セレナ嬢」
彼が私の名を呼ぶ。
静かな声で、でもはっきりと。
「どうか、心配なさらないでください。
あなたは……守られるべき存在です」
心臓が跳ねた。
ライラント様が、そんな台詞を私に言うなんて――
……ゲームの中じゃ、一度もなかったのに。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます