奴隷商人は巨乳盾姫に狙われる
フィステリアタナカ
第1話 僕は奴隷商人
「僕を誰だと思っているの?」
「奴隷商人の次男で名はアルマ。今十九歳で趣味は錬金術のお勉強。お堅い面白くないヤツですわ」
「あのね、ガイ。僕はあなたの主人でしょ?」
「そうでした、そうでした。
「まったくぅ」
僕の父親はこの町で奴隷商を営んでいる。世間的には奴隷商人は忌み嫌われている存在で、僕は将来兄に代わってこの奴隷商を引き継ぐ予定だ。
「で、若、これから仕事ですか?」
「そうだよ」
目の前にいる屈強な男、ガイは僕の奴隷だ。十五歳の時に父に成人の祝いで「好きな奴隷を選べ」と言われ、僕は彼を選んだ。四肢欠損していた彼を買って、更に父親の知人である錬金術師に彼の義手義足を作ってもらい、彼に護衛として働いてもらっているわけだ。僕は食堂へ向かう。
「マーサさん、おはようございます」
「おはよ、アルマちゃんいつも早いねぇ」
「もう出来上がってますか?」
「出来上がってるよ。朝食を運ぶのは三階からかい?」
「はい。お願いします」
奴隷商館で働くマーサさんは食堂で働く従業員だ。僕が幼い頃から面倒を見てくれて、ある意味親戚のおばさんのような存在だ。
僕はマーサさんと共に奴隷商館の三階へと向かう。僕の役割は奴隷たちのお世話係。三階には若い女性の奴隷がいて、彼女達は奴隷達の中でも良い待遇を受けている。何故って? 性奴隷として高く売れるから。彼女達の健康状態を保つことは重要なことだからだ。
「お待たせぇ。朝食持ってきたよ~」
主に貴族がここにいる女性達を給仕という名目で買い取ることが多い。実際の所は自分の欲望を吐き出すために買い取っているだろうけれど……、ホント、彼女達にはいい主人に出会って欲しいと思う。
「マーサさん、ありがとうございます」
「ホント、アルマちゃんは真面目だよねぇ。お兄ちゃんみたいにもっと気楽に生きた方がいいんじゃないの?」
「ははは、そうですね」
兄は父親に「好きな奴隷を選べ」と言われたとき、真っ先にこの三階に向かった。そこで「俺の子供を産んでもいいヤツいるか?」と女性達に言い、それには三人の女性が名乗り出た。初めその話を聞いたときには驚いたが「ああ、酷い主人に買われるくらいなら、兄さんの下で暮らした方がいいのか」と僕は勝手に納得した。
「マーサさん、一階の人達を呼んで来ますね」
この奴隷商館の二階はロビーや奴隷の引き渡し所、事務室などがある。一階にいるのは口減らしの為に売られた子達や借金奴隷などがいる。僕は彼らに声をかけ、彼らは順番に食堂へと移動するのだ。
「ガイ、今日も手伝って」
「まったく、若はお人好しなんだから。廃棄奴隷なら面倒みなくてもいいでしょ?」
「あのね。ちゃんと健康になれば、店の売り上げだけでなく本人にもいいでしょ?」
「あんなところへ行ったら病気がうつりますぜ」
「大丈夫だよ。
朝の最後の仕事は、病気などで弱った奴隷達をお世話をすることだ。彼らの多くはは他の奴隷商館で買い手がつかなかった奴隷である。食事などの経費を考えたらバカにならないので、同業者の一部はこの奴隷商館に売りつけている感じだ。僕は治すことを前提に父親の許可を得て、彼らを買い取っている。僕はガイに食事を持たせ一階の倉庫へと向かう。
「食べ物持ってきたよ。何か変わったことある?」
僕がそう言うと、倉庫にいる一人の奴隷が僕に力なく言う。
「奥にいる爺さん、死んだよ」
「そっか……」
そう、奴隷が死ぬのは日常茶飯事。僕にもっと魔力があれば、どうにかなったのかもしれない。それでも落ち込んでいるわけにはいかないので、毅然とした態度で振る舞い、ここにいる奴隷達の世話をした。
「ガイ、ありがとう。キュアかけるから、こっち来て」
朝の仕事を終え、朝食を摂る。その後、二階の事務室に行き、父親と今日の仕事の打ち合わせをする。
「今日は辺境の男爵が来る予定だ。アルマ、対応できるか?」
「はい、大丈夫です」
父親に男爵の対応を頼まれ、早速準備に取り掛かる。顧客リストには無かったので、新しいリスト用の紙を用意して、それからロビーの掃除を始めた。もちろん掃除はガイにも手伝ってもらう。
「若、こっちの掃除は終わりました」
「ありがとう。休憩に入っていいよ」
「若も休憩に入ったらどうです?」
「あとで、休憩するよ」
「まったく。そう言って休憩に入ったことありますか?」
「そうだっけ?」
奴隷商館の営業が始まる。僕は受付で錬金術の本を読みながら、お客さんが来るのを待った。営業開始から一時間後、知り合いの同業者が訪れる。
「いらっしゃいませ」
「おう、坊主――じゃなかった五代目。店長は?」
「事務室にいます。今すぐ呼んで来ますね」
「よろしく。あっ、そうだ。また、買い取り頼むな」
僕は父親を呼び、父親は同業者と鉱山で働く奴隷について話をしている。奴隷の数が足りないらしく、父親は同業者と一緒に一階へ向かった。
「若! 男爵が来ましたぜ!」
ガイが初老の男性を僕の所へ連れてくる。僕はガイに受付をお願いし、男性を応接室へ案内した。
「本日はどのようなご用件で」
「パートナーとなる女が欲しくてな」
「そうですか。具体的にはどのような――」
「知的でコミュニケーションが取れる女がいい」
「左様ですか(うーん、知的ってことは教育を受けているってことだよなぁ。誰がいいだろ)」
「それと儂、甘えん坊じゃから」
「はい(甘えん坊かぁ。色気はそれほど求めていないのかも)」
「儂より年上がいい」
「へっ?」
「ん?」
「お客様、失礼ですが若い性奴隷ではなく?」
「ほっほっほっ、儂はもうたたん。穏やかに一緒に暮らせるパートナーを求めているんじゃよ。変に金目当ての女が寄って来るのは落ち着かなくてな」
「そうですか……」
そんな奴隷はいないと、僕が悩んでいると応接室を叩く音が聞こえた。
「失礼しますね」
マーサさんが来客にお茶を持ってきたのだ。僕と男爵の前にお茶とお菓子を置くと、男爵の目が輝いた。
「この人がいい」
「えっ?」
僕は驚き、マーサさんは不思議そうな顔をしていた。男爵は続ける。
「この人をお願いしたい」
「あのー、お客様。この者はうちの従業員で奴隷ではないので」
「お前さん、儂と一緒に暮らさないか?」
僕の言っていることが男爵の耳には届いていないようだ。マーサさんはじっと男爵を見つめている。
「いやだぁ。お客様、上手いこと言って」
「いや、儂は本気じゃ」
「あら? じゃあ、返事は後でもいいかしら?」
「大丈夫じゃ、明日帰るから、それまでにな」
何か話がややこしい方向へ行っている。マーサさん? まんざらでもないような顔をしているのはどういうこと?
「じゃあ、若旦那。よろしくな」
「はい、明日お待ちしております」
僕が男爵を見送ると、父親が十数人の奴隷を引き連れ受付に現れた。どうやら交渉が上手く行ったらしい。同業者も満足そうな顔をして、受付で手続きを済ませていた。
「馬車の手配は?」
「おう、頼む」
「幌付きか?」
「幌無くて大丈夫だよ、運ぶだけだから」
「御者は?」
「お願い」
「わかった。一時間ほど時間がかかるが」
「大丈夫だ」
◆
午前中の営業が終わり、昼食を摂りに食堂へ行く。食堂ではマーサさんが真剣な顔つきで、マーサさんを手伝っている奴隷に話をしていた。
「マーサさん、僕の分のお昼あります?」
「あっ! ごめん、アルマちゃん。引き継ぎのことで頭がいっぱいで忘れてたわ」
どうやらマーサさんは、あの話を受けるつもりらしい。父親に話を付けなければならないなと思いながら、食事が出てくるのを待った。
◇
「――というわけなんだ、父さん」
「いいぞ。引き継ぎが終わっているなら、問題ないだろ」
という感じで、あっさり許可が出た。僕はすぐにそのことをマーサさんに伝え、マーサさんは早速、嫁ぐための? 荷造りを始めた。
翌日。男爵が訪れ、彼はマーサさんの返事を喜んでいた。僕は結納金代わりのお金を有難く受け取り、マーサさんと別れの挨拶をした。
「マーサさん、今までお世話になりました」
「いいんだよ。まさかこの歳でパートナーが見つかるとは思ってもいなかったからさ。アルマちゃん、元気でやるんだよ」
「はい。マーサさんもお元気で」
こうしてマーサさんは男爵と共にこの奴隷商館を去った。新婚? 旅行の話をしていたので、今度会う時にはその土産話でも聞こうと思う。
◆
この日の夕方、来客があった。冒険者らしき恰好をした男達が受付に来て、その中には顔が焼きただれたガタイのよい女性がいた。目が見えなくなっているのだろう。彼女の左肩から胸にかけて酷い火傷の痕があり、「この冒険者はこの人を売るつもりなんだ」と僕は感じた。
「いらっしゃいませ」
「コイツを売りたい。どうすればいい?」
「でしたら、店主のいるとことにご案内します。そこで値段の交渉をする形になります」
「じゃあ、頼む」
最近、噂で聞いたことがある。冒険者が冒険者を狩り、金品を巻き上げる噂を。おそらく彼女はそれに巻き込まれ、殺されなかったがこうして奴隷落ちする羽目になったのだと。
「銀貨十枚だな」
「おいおい、おっさん。銀貨十枚はないだろ? この女、性奴隷として使えるだろ? 少なくても金貨一枚くらいの価値はあるだろ?」
「なら、他の所を当たってくれ。その顔と体の傷じゃ、娼館でも働くことは難しいだろう」
「ちっ。なぁ、もうちょっと何とかならないか?」
父親はいつもと変わらない感じで、冒険者達と交渉をしている。そんな中、父親は僕に話を振ってきた。
「アルマ、お前はどう思う?」
珍しい。父親はこんなことは普段言わないが、僕の魔力で傷をどのくらい癒せるか。商品価値があるか訊いているのだろう。僕は彼女を見る。鍛え上げられ割れた腹筋を見て、おそらく彼女は
「僕なら、銀貨二十枚出す」
「おっ! 若いのにわかってるじゃーん。おっさん、銀貨二十枚な」
交渉を終え、僕は冒険者達に銀貨二十枚を渡す。冒険者達を見送った後、彼女のもとへ行った。
「酷いな――治療するから取り敢えずここで待っていて」
「何で買った」
「ん?」
「太っているし、こんな顔じゃ女としての価値が無いだろ」
「自分を卑下する必要は無いと思うよ。あなたは充分魅力的だと思う」
「み、みりょくてき?」
「うん。だからちょっと待ってて」
僕は受付をガイに頼み、彼女を自分の部屋に案内する。彼女にベッドの上に横たわってもらうようお願いした。
「あ、あの、さ。あたい初めてだから優しく……」
「わかった。大丈夫、痛くないから」
僕は彼女のただれた顔から治療していくことにした。残っている魔力の量から、今日中に顔を治療しきれないかもしれない。僕は夕食を摂ることも忘れ、必死に回復魔法を彼女にかけ続けた。
「とりあえず今日はここまでかな。奴隷商館の一階に女子部屋があるから、そこで寝てね」
「あ、ありがとう――ねぇ、あたいローズっていうんだけど、名前を教えてくれない?」
「僕? 僕はアルマだよ――あっ、夕飯一緒に食べる? お腹空いたでしょ?」
僕はローズと食堂へ行く。席に座りローズよく見ると、器量が悪くないどころか、彼女の顔は美人の類であることがわかった。ローズと一緒に夕飯を食べたが、彼女は予想通り大食らいで、少しもの足りなさそうだった。食事を終え、ローズを一階の女子部屋に案内した後、僕は自分の部屋に戻る。疲れ切っていたためか、僕はベッドの上ですぐ眠りに落ちた。
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