七月七日の寄宿舎
なつろろ
星たちの夏
天球聖女学院、寄宿舎には夏の星の子達が集まってきた。
春の星の子達はもう、ここを去ったようで。声が遠くに聞こえる。
アルクトゥルス、スピカ、レグルス、デネボラ達の明るい等級の子たちは今年も自分たちの仕事を全うした、あとはまた自分の季節が巡ってくるのを待つだけ。
私、デネブも寮で同じ寮生のベガを待つ。
青白くて綺麗に切りそろえられた短髪に丸くて青い瞳がチャームポイントの我が東寮の寮長だ。
私たちより明るくはない等級の子たちの声が増えていく。私たちはいわゆる《夏の大三角》である。
東寮長、ベガと西寮長、アルタイルの傍で今年も彼女達が上手く会えること願い橋渡しをするのが、私、東寮生 デネブなのだ。
「今年はどういうトラブルでどちらが来られないのかだなぁ」
私はまだ来ていないベガを思いながら、アルタイルも同じ気持ちなのかなと考え、2人のうちのどちらかが来るのを待っている。
私の部屋をノックする音がして、私がドアを開けるとそこにはアルタイルでもベガでもない人が立っていた。
アンタレスがそこにいた、わざわざ南寮から?と思ったがこの人は毎年私たちがごちゃ着くのを楽しそうに見ていたなあと思いながら部屋に通した。
同じ制服を着ているはずなのにアンタレスはベガととは違う危うさや輝きがある、私たちの制服はワンピースタイプの制服で、皆同じ丈であるが変わっているところは等級制度だ。
明るければ明るいほど、制服の色である黒が濃くなる、アンタレスもその1人だ。
ベガやアルタイルもそこそこ黒くなってきている。
私のベッドに座るアンタレスは楽しみという気持ちが抑えきれないのか私にちょっかいをかける。
「なあ、まだ2人とも来てないのか?」「アンタレスには関係ないでしょ、貴女だってベテルとリゲルには避けられているはずでしょ」私がそういうとアンタレスはゲッという顔をして、それとあんた達のそれとは別じゃんと続ける。
「ベテルもリゲルも貴女が嫌って聞いたわよ」「誰から?なあ、誰からだよ」「秘密、それにしても2人とも遅いわね、やっぱり見てくる」
ベテルとリゲルがアンタレスを苦手としているのは他の子達から聞いたことは伏せておくとして、私は腕にまとわりついてくるアンタレスを振りほどくと、部屋を出てベガがいるであろう部屋へ向かう。
アンタレスもそうであるし、私もそうであるが等級が高い子達は他の子達からの目線や他人から見られやすいことや自身の存在を揺るがされるようなことが起こると、精神状態が悪くなるのだ。
アンタレスのように明るく大きな子はコントロール出来ることもあるけれどベガはそうでは無い。
振り回されやすい気質であるから、ここに来ないということは。
私の勘は当たっていた、ベガの部屋をノックすると
「……入ってこないで」
弱々しい彼女の声が聞こえた、私はノックした手を止めて。ドアの前でどうしたのかと聞く。
「アルタイルと何かあった?」「うるさい、デネブには関係ないでしょ」その直後、ドガッという大きな音がドアから聞こえた。(またランプシェードを投げたな……)私は大きなため息を付くと、彼女の部屋に無理やり入った。
鍵はかかってなくて、真っ暗な部屋で彼女の青白くて綺麗な髪が燃えるように揺らめいていた。
真っ黒な制服が闇に溶け込んでいる、部屋の明かりは彼女が放つ青白くてぼんやりとした光しかない。
私は、ゆっくりと彼女に近づいて彼女の顔を上げると、いつも会う彼女はそこにはいなくて、青くて丸い瞳から絶え間なくきらきらと灯りがこぼれ落ちる。
ぐすぐすと鼻をすする音に呼応して、上下する肩、煌めく髪の毛。
(ベガをこんなに泣かせて、アルタイルは良心ってものが無いのか……)
アルタイルが泣く年もあればベガが泣いて引きこもる年もあるけれど、今年は一段と酷い《夏の大三角》になるだろう、私はそう思いながら彼女を慰め続けた。
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