第4話 交番勤務員の推理

「お巡りさん、こんにちは!」


 ランドセルを背負った小さな少女が交番内を覗き、敬礼している。


「こんにちは。どうかした?」


 西野さんはカウンターから出ると、少女のもとへ移動する。俺はデスクで書類を作成しながら、二人の様子を視界の端に映していた。


「落とし物、届けに来ました!」

「あら、ありがとう。これは……バッジね。お姉ちゃん、あっちで書類を書くのに協力してくれるかな?」

「いいよお」

「それじゃあ、ここに座って——落とし物は、扇形に『高』と書かれたネジ式バッジね。どこかの高校の校章バッジかしら」


 扇形に『高』と書かれたネジ式バッジ……我が母校・追岐おうぎ高校の校章バッジだ。


「それ、追岐高校のっすね。追岐おうぎおうぎ、ダジャレです」


 口を挟んだ途端、頭の中に激しい稲妻が走った。わかった。わかってしまったのだ。放火現場の法則性が。俺は壁に貼られた四之神市内の地図に目を遣る。そして力強く宣言した。


「次に放火されるのは、田箱崎たばこざき町だ!」


 ———————————————


 翌週の火曜日。二十時。田箱崎町のいたるところに四之神署の捜査員が息を潜めていた。俺は吉川さんと西野さんと一緒に、とある五階建てマンションの裏手に隠れていた。近くには刑事課の課長も身を隠している。ちなみにこの刑事課長は、昔、轢き逃げされた俺のたい焼きの仇を討ってくれた強敵ライバル——いや、恩人でもあり、今でも良くしてもらっている。


 放火現場は少しずつ市民の生活圏に近づいている。次は自転車置き場あたりが怪しいのではないか——これは吉川さんの推理。夜間に自転車が並ぶのは、マンションかアパートの自転車置き場だろう。俺たちはこの町で一番大きなこのマンションに目を付けたのだ。


 二十二時三十五分。俺たちの推理通り、薄暗いマンションの自転車置き場に、フードを目深に被った一人の男が現れた。男はペットボトルを取り出すと、中に入っていた液体を自転車に撒く。そして、新聞紙を丸めて火を着けると、それを自転車に落とした。最後に、百円玉を地面に置く。炎は瞬く間に燃え上がり、自転車を飲み込んだ。


「逮捕おおおー!」


 刑事課長が叫び、物陰から捜査員が飛び出した。男は未施錠の手近な自転車を引っ掴むとそれに乗って逃走を図ろうとする。


 逃がして堪るか。俺は念の為に持ってきていたサッカーボールを勢いよく蹴りつけた。サッカーボールは男の後頭部に見事に命中し、激しく転んだ男は無事捜査員に取り押さえられた。


 青春の恵比寿堂に火を着けた奴の顔を拝んでやろうと、俺たちも放火犯のもとへ駆け寄った。諦めたように無抵抗な犯人のフードを刑事課長が脱がす。


「嘘……だろ……?」


 それ以上、言葉が出てこなかった。だって放火犯の正体は、警察学校時代の友人・北村だったのだから。

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