四角形の住人

緑龜

四角形の住人

 僕は今まで生き物という生き物をちゃんと飼ったことがなかった。だから今後四角形の住人とちゃんと仲良くしていけるのかわからない。なにしろ彼らは缶ビールと同じくらいの大きさしかないからだ。何かのはずみでぷちっと潰してしまったら彼らに申し訳が立たない。でも今のところは彼らと仲良くできていると思う。

 彼らは四角形からやってきた。僕らが街中で見かけるありとあらゆる四角形から彼らが出てきた。大体1つの四角形当たり4人の住人が出てくる。そして僕を含める世間の人は最初どうしたらいいのか分からなかった。危害を加えるのかも友好的なのかも意見を交換できるほどの知性を持っているかも分からなかった。けれどしばらく時が経つにつれて彼らが友好的な態度をとっていることが分かった。僕たち人間が歩けば道をどいてくれるし、何か困ったことがあれば助言をしてくれたりもした。僕たちはすぐに彼らと仲良くなった。今や皆4人ずつくらいの彼らと暮らしている。

 僕は教科書の編集者として働いている。数学の教科書を編集することが多い。そんなに高度な内容ではないから頭を悩ますことはないけれどそこそこに疲れる。けれど四角形の住人が手伝ってくれるようになってからはそうして疲れることもなくなった。僕だけではない、世の中の色々な人が彼らによって助けられている。緊急通報をして人間を助けたという事例もある。全くありがたい限りだ。仕事が早く終わるとその分の時間を自分の趣味に使えたりもする。彼らはどこまでも僕たちを手伝ってくれる。

 困ったことが起こった。数学の教科書の編集を手伝ってもらっている時に住人が怒った。心当たりはある。図形の単元で球の図形があったのだ。四角形の住人なら球の事を嫌うのは無理もないかもしれない。それでもかなり怒っていた。しばらく彼らは手伝ってくれないだろう。なぜなら球の部分だけをぐちゃぐちゃにしてごみ箱に捨ててしまうくらいなのだから。

 さらに困ったことが起こった。四角につられたのか世の中の球という球からそこの住人が出てきたのだ。四角形は4人しか出てこなかったが球は何人も何人も住人が出てきた。四角形の住人と争い始めた。数の差で四角形の住人はだんだん追い詰められていった。あっという間に四角形の住人はやられて消えてしまった。球の住人は四角形の住人より幾分か大きく、体が丸かった。彼らは人間に直接的な攻撃はしなかったが手伝いもせずずっと周りをまわっていた。かなり邪魔だった。なにしろ数が今も増え続けているのだ。それもかなりすごいスピードで。ふと思うのだがこの地球が球の形をしているのはもしかしたら彼らのためかもしれない。彼らの星にするためかもしれない。

 

 

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