『真実の残響』-情報神話シリーズ4作目

絽織ポリー

プロローグ

###プロローグ


「見えているものだけを信じるな、クイン。特に、見えすぎるものには裏がある」

老いた師の声が、ジャーナリストのサム・クインの脳裏にこだました。ニューヨークの喧騒は、以前にも増して心地よく、そして不気味なほどに調和していた。摩天楼の巨大スクリーンには、ブレイク大統領候補の顔が絶え間なく映し出され、彼の言葉は街のスピーカーから、まるで福音のように降り注ぐ。人々は皆、スマートデバイスを片手に、その「完璧な」情報空間に没入していた。ここ数ヶ月の間に、アメリカ社会は驚くべき速さで変貌を遂げていた。まるで何かに導かれるように、誰もが同じ方向を向き、同じ言葉を口にする。


サムは、その変化に違和感を覚える数少ない一人だった。彼は、長年培ってきたジャーナリストとしての勘が、この「完璧さ」の裏に潜む何かを告げているのを感じていた。大統領補欠選挙から始まったこの異常な熱狂は、今や投開票日を間近に控え、最高潮に達していた。ブレイク候補の支持率は異常なほど高く、対立候補の存在は、まるで最初からなかったかのようにかき消されている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る