愛という天気

四季式部

愛という天気

私の仕事はお天道様に自慢できるものでもない。今日も熱帯夜の中、街中を駆け回る。夏は網戸の家がある。そこにしの忍び込んで金品をこそぎ取る。金で出来たネックレス。シルバーの腕輪、小さなダイアモンドが埋め込まれた指輪、万札たち、全てが私の手の中だった。

「この家で今日は最後だな」夏の月が私を睨んでいる。罪悪感は無いはずだ。ただ、心のどこか奥底に朧月のようなぼんやりとした妖光がある気もするが、考えてはいけないとすぐに目を逸らした。

網戸を空け、土足のまま家に入った。どうやらこの家はおっさんが一人で住んでいるらしい。大きないびきがその証拠である。私は舌打ちをした。なぜなら、外見は素晴らしい家だった。しかし、こんなおっさんが住んでいて、金品があるわけがなかった。ただ、札束があるのではないかと期待を膨らませながら色々な部屋を回る。ふと黒い影が蹲っているのに気づいた。

それは私と同い年くらいの女の子であった。しかし、とても痩せていて、華奢であった。ぐったりと蹲り、怯えている。気づくと私は彼女を盗んでいた。今世紀最大の犯罪を犯してしまったと額には汗が滲んでいる。月夜が煌々と光る中、私と目を合わせると彼女は安心したのか、抱えられたまま寝てしまった。私はお姫様抱っこからおんぶに変え、秘密基地へと帰った。

いつもは作ることの無い朝ごはんを2つ作った。朝からご飯を食べるのもいいなと思っていると彼女が起きてきた。「……」蝉の声が耳を貫く。明るい中見た彼女の眼は猫のように鋭く、世界をあしらう様な絶望に満ちていた。「これ食べな」私がハムとスクランブルエッグを渡すと流し込むように食べた。ぷッくら膨れた頬っぺを見つつ牛乳も渡した。「食べたら服貸すから風呂入ってきなよ」彼女は牛乳を流し込むと満足したようにお風呂に入りに行った。

私はなかなか出てこない彼女を呼びに行く。かれこれ1時間以上は経ったのだ。「おーい」呼んでも返事がない。シャワーの音がやけに耳の近くで聴こえる。ふと頭に衝撃が入った。そのまま地面が近くになる。次に見た景色は刑務所だった。どうやら彼女が通報して近くにあった瓶で殴ったらしい。私は19歳にして住居侵入罪、窃盗罪、監禁罪その他もろもろの罪で牢獄に入れられた。

ただ、私は他の犯罪者と違うところがあった。それは毎日手紙が届くことである。ハムとスクランブルエッグのイラストが描かれた絵手紙だ。今日も来た。手紙には一言今までの罪を償って、私のところに来て欲しいと書かれていた。

私の天気はずっと曇っているが、彼女はそれを雨にした。そして今日も傘を渡してくれる。晴れる日を目指して。

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愛という天気 四季式部 @sikisikibu

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