若き二つ名ハンターへの高額依頼は学院生活!?
狐隠リオ
プロローグⅠ/Ⅱ
決別の日。
それは一般的に世界規模で大きな変革が起きた日とされている。
「まっ、俺には何も関係ないけど、な!」
世界の情勢なんて俺には何も関係ない。
——俺はただ、敵を斬るだけだ。
「何者だ!」
「どうもー」
整備された街道から外れた獣道。木の上で待機していた俺は、奇襲だなんてそんなせこい事はしない。堂々と声を上げながら降り立った。
「ちょっとちょっと、そんな風に警戒されると俺たち悪い事してるナウって自白してるようなもんじゃね? お前らそんな事も想像出来ないのか? つまり人の形をしてるだけの中身は猿ってやつだな。あーあ、悪者退治の依頼だと思ってたのにまさかの猿退治かよ。やり甲斐ねえなー」
手振りを加えつつ正直な感想を口にすると、図星をつかれたであろう男たちの怒気を向けられた。
男たちの数は四人。装備は急所を保護している程度の革製軽鎧とよく見る両刃剣だ。
どちらも安価で手に入りやすく、新人ハンターたちが良く使ってるイメージだな。だから最初の何者だ発言さえなければ、ぱっと見は四人でパーティーを組んでいる新人ハンターだって言い訳が出来ただろうに。
まあ、新人にしては少し老けてるけど、三十代から始める奴らもいないわけじゃないしな。
新人ハンター装備をしている四人組に対して、俺の防具は更に貧弱だ。なんせ鎧なんて着ていない普段着状態だからな。
腰には使い慣れた
そんなふざけた格好の奴にいきなりこんな事を言われたらどう思うか。
「ふざけんな餓鬼が!」
キレますよねーと。
剣を抜いて向かってくるのは一人。もしかして貧弱装備だからって舐めてます? 俺の方が確実に年下だろうし、絶対に舐めてるよな。
「はあー、これだから最近の大人は質が落ちてるって言われるんだ。俺にさ」
腰に手を当てて俯きため息をつくと、顔を上げる事なく腰へと手を伸ばした。
「なあ、おっさんと呼ぶには若そうなおっさん。これが見えないのか? 帯刀してるって事は当然、戦う牙を持ってるって事だぜ?」
ニヤリとした我ながら好戦的な笑みを浮かべると共に視線を上げると、目の前には既に剣を振り上げているおっさんモドキの姿があった。
「鈍いっ!」
モドキが振り下ろすよりも先に鞘から刃を解き放つと、その勢いのまま胴に一閃。
「居合ってやつだ」
一太刀で一人目の未来を永久に断つと、赤く染まった刀身を振るって血を払った。
「ちなみにこれは正当防衛だからな。だから襲って来る前に話をしようじゃんか」
白刃を肩でトントンしながら言ってみたけど、まあ話し合いなんて出来るわけないよな。
俺としては心の底からただの正当防衛だと主張したいのだが、彼方さんとしては仲間を殺されたわけだし、止まれねえよな!
……って思ってたけど、ありゃ? 向かって来ないぞ?
まさか俺の主張が通じた? いやいやそんなわけないか。三人の内二人は剣を構えているし明らかに警戒している。
これはあれか、俺が一撃でやったから滅茶苦茶警戒してるって事ね。
ふむ、それなら本当に会話が成立するのでは?
「そのまま大人しくしてろよー。別に俺は戦闘狂ってやつでなければ殺人中毒者ってわけでもないんだ。無駄な殺生はしたくない。俺の目的はただ一つだ」
そう言って左腕を上げると、剣を構えている二人の男の後ろに立っている男を指差した。
「お前が持ってるその袋の中身だ」
四人目の男が剣を構えていない理由は、そいつだけが大きな袋を背負っているからだ。
どれくらい大きな袋かというと、例えるならそう……子供一人が入りそうな大きさだ。
「人身売買なんてリスクが大き過ぎてリターンが少ないだろうが。洗脳して駒にするとしても金を払ってプロのハンターを雇った方が楽だろうし、悪い事をするつもりなら探せば闇ギルドの一つや二つ見つけられると思うぞ」
この四人組は人攫いってやつだ。
正式な契約をした正規奴隷としてではなく、非合法な奴隷を売買する組織に持ち込むつもりなんだろう。
攫った子供にどんな利用価値があるのかなんて俺には関係ない。俺はただその子供を確保して依頼人に返し、報酬を貰えればそれで良いだ。
「察しがついてると思うけど、俺はギルド所属のハンターだ。依頼内容は攫われた子供の救出であって、お前らの首が欲しいわけじゃない」
個人的にはその首が金になる場合、つまりおっさん候補たちが賞金首だった場合には問答無用の金色天誅するつもりだけど……まあ、雑魚っぽいしそれはないだろ。
「はっきり言うぞ。三対一だろうが俺は絶対に負けない。お前らの牙じゃ俺に傷一つ付ける事すら出来ない。なあ、無駄死になんて嫌だろ? こっちとしても無駄に刃を消耗するのは勿体無いからな。どうだ? それを置いて行けば見逃すぞ?」
弓や銃なら矢と弾っていうわかりやすい回数制限があるけど、刀とか刃を持つ近接武器だって回数制限のある消耗品なんだ。
人間ってのは思っている以上に硬い。それを斬るとなると一太刀ごとに刃は欠けて鈍道を突き進む事になる。
そうなったら武器としての意味がただの鈍器になるからな。その度に研磨して再び研ぎ澄ませる必要がある。
研磨する、つまり削るって事だ。
だから研ぎ澄ませるたびに刃は減り、細くなっている。やがて刃としての強度を保つ事が出来なくなる。それが使用限界だ。
「なあ、俺は正義の味方ってわけじゃない。お前らがどんな悪党だとしても仕事の邪魔さえしなければどうでも良いんだ。そんで金が手に入ればオールオッケー。世の中金ってね。金があれば何でも手に入るからな」
この刀は別に名のある業物ってわけじゃないし、師匠から譲り受けたってわけでもないが、手に馴染むほどには振るってきたからな。新しい刀を買うには金が掛かるって理由が九割くらいだけど、確かに愛着があるんだ。
相棒の寿命を雑魚の命で削りたくないって思うのは当然だ。
だけど残念な事にそんな気持ちなんて猿には理解出来ないらしい。
「……はあー、しゃーないなー」
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