Darkness Melt
麝香連理
第1話
私達が暮らす世界、そこにはダンジョンと呼ばれる洞穴があった。当初は手も足も出ず、遂に人類も滅ぶのかと思われた。
しかし、それに順応するべく、人類は五十年懸けてその境地に至り、適応したのだ。
そうすれば、後は簡単。技術進歩は加速し、ダンジョンから手に入る物で私達の生活は天井を突き抜けた。段々とダンジョンは人類の脅威ではなく、遊び場や楽に稼げる社会のための仕事という、陳腐な物へと変貌した。
それでもイレギュラーとは存在する。
度々起こる厄災に対抗するべく、政府は国内に存在するダンジョン毎に一人、【影】と呼ばれる隠密組織を配備していた。
それに、今となってはダンジョン内に電波を通せるようになったが、つい五年前までダンジョン内は犯罪の温床でもあった。
それの調査も【影】の役目だった。
まぁ、今では実力者も多く、犯罪も殆どない。あってもちんけな俗物ばかり…………専ら新人の能力調査、あっても能力更新やダンジョン内での人格の確認など、必要なさげなものだったりする。
まぁ、我が国は万が一、億が一に敏感なようで、高い税金を使って私達を雇用してるってわけ。
…………え?だらだらと語っといて自己紹介はないのかって?
ないない、私は長野県の白馬岳ダンジョン担当の【影】。気軽に白馬ちゃんと読んでくれたまえよ。
女なのに白馬…………?つまり白馬に乗った王子様は私に馬乗りに………………?
とまぁ、暇な時はこんなこと考えて暇を潰してるよん。最近は片手間に出来る仕事が増えたからねぇ。
ここはスキーとダンジョンが楽しめるって強みで観光客を集めてる。だから冬時は忙しくって忙しくって…………いや、二年前に夏でも雪を降らせる魔道具が開発されたらしいから、そろそろ本気で年中無休を覚悟しないといけないか………………
あぁーダル…………………
ん、任務………………新人パーティである、玉の統治の監視及び能力調査……と。
「……………………………………」
三キロメートル先で件の玉の統治が戦っている。
ここ白馬岳ダンジョンは新人に優しい、下に降りる毎に敵が強くなる形式だ。だからこそ、近場の人は良くここに来る。
駒形聡、雑魚。
安芸セイナ、魔法が良さげ。
栗野理、足が速い。
明野沙苗、向いてない。
遠野彰、まとも。
はい、送信っと。
え?雑だって?
いーじゃんいーじゃん、どうせすぐにいなくなるか、すぐ更新されるんだしさ。
白馬岳ダンジョンは新人には良いけど、日常的に稼ぐにはちょっと…………って言われるくらい稼げない。だから、早々同じ奴は来ねぇ。
だからオールオッケー。
…………後はながらで出来るし、今日の業務は楽…………………あ?
『緊急・配信者スーパー☆曙がイレギュラーと交戦
観察の後、危険な場合は介入を許可します』
はぁ~ッ?
一番ダッルいやつじゃねぇーかよぉ…………イレギュラーってだけでも始末書面倒なのに、配信者ってのはカメラがある。
つまり救助者以外の目にも留まるということ。
かぁーめんどくさいことこの上ない!
つーかスーパー☆曙って誰だよ!言いにくいしダセェ!
は?お前今なんつった?白馬ちゃんのがキュートでプリチーだろぉぉぉぉ!?
それに、最近では【影】も表舞台に出て来始めてるからいーじゃん、って思ったそこのお前!
お前お前お前お前お前ッ!
私にゃ、絶対に見られちゃいけねー理由があんだよ!
クッソ!
は?教えるわけないじゃん馬鹿なの?
人のスキルは女性の年齢よりも聞いちゃ行けね~って親に教わらなかったのか!?
はぁーやっぱこの仕事、イマジナリーフレンド作らないとやっていけねーや。
……さ、愚痴も吐いたし、ちょっくら行くか。
ースーパー☆曙ー
「ヒ…………」
喉から絞り出たのはそれだけ。
私は目の前にいる恐怖に足が竦んでいた。
《逃げろ!逃げろ!逃げろ!》
《配信初日でこれは…………運が良いのか悪いのか……………》
《頼む!俺の推しになるかもしれないこの子を助けて、神様仏様デカパイ童顔合法ロリ様!》
《↑私情入ってて草も生えん》
《これ白馬ダンジョン三十階層のキマイラじゃね?何で五階層にいるんや?》
さっきとは違って目まぐるしく動くコメント欄を見るも、結局は視線が前に釘付けになっていた。
「こ、来ない………で……………」
私は杖を握り、今使える最大火力の魔法を発動させた。
「う、ウィンドマントラ!」
荒々しく敵を切り刻む頼もしい風の刃も、眼前の存在には掠り傷すら付かなかった。
「う……そ………………」
《まーまー、気にすんなここにも【影】さんおるし》
《ひえ、硬すぎやろ…………》
《えぇ?ここの【影】って何一つ情報ないからいないって結論じゃなかった?》
《いやw流石におるやろwwwこれで曙ちゃん死んだら抗議案件やわwwwww》
「私………、もう……………」
《あ、尻餅ついちった》
《あぁーそのペタンと座る感じエロいっす》
《お前ら緊張感なさすぎやろ!【影】がいるからって呑気すぎる!》
《お?ダンジョン配信は初めてか?力抜けよ》
《そーそー、どうせ俺達の税金で飯食ってる人が助けに来るからさ》
《いや、だからって曙ちゃんを放っておくなよ!俺達が励まさないと、トラウマになるかもしれないだろ!》
《トラウマになったらその程度ってことやん》
《ここ競争世界やしー》
コメントで助けを求めようとしても私のことなんて眼中にないみたい。【影】っていうのは私も知ってるけど…………………
「皆…………酷いや…………………」
ー自称白馬ちゃんー
フムフムフム…………さっきの風魔法は中々ね。ここで死ぬには惜しい。
だけど………………あれじゃあ復帰は難しそうね。
昔はもう少しコメントとかも心配する声があったのになぁ。
あ!言っとくけど、私まだ十代だから!あと一歳で二十代でも、今はまだ十代だからッ!
昔ってのは学生時代に配信見てたからねッ!
まぁ今の私には関係ないし、近くに実力者はいないから結局私が行くハメに……………よよよ…………
「皆…………酷いや…………………」
そう発した曙ちゃんの瞳の雫が、硬い岩の地面を濡らした。
おっと、速く行かなきゃ。
また族長にどやされる。
「光魔法……………ホーリーワールド!」
さ、これで視界を遮って………………はい、私のナイフでキマイラの三秒クッキング完了~。
後は帰還石を、曙ちゃんにダイレクトアタック!
曙ちゃんに八千のダメージ!曙ちゃんは天に召されて無事に生還!
フゥー、良い汗かいたぜー……………あ、やっだ、私ったら乾燥肌♡
ースーパー☆曙ー
私が死を悟った時、目映い閃光が周囲に広がった。
「な、なに!?」
私は必死に目を抑えながら頭を両手で守るようにしゃがむ。咄嗟の判断だったけど、動くのだけは駄目だと、直感的に感じていた。
そうして気づいたら…………………
「あれ?」
そこは白馬岳ダンジョンの受付ロビーだった。
不思議に足下を見ると、そこには帰還者用のポータルがあった。
「か、帰れた…………?ど、どうして?
…………そうだ、コメントの皆なら!」
《patajmt6t5w-.j5v》
《vatgjtjwtw》
《tj3tjy6x#ug@26??w9w》
《目、目がぁ……………》
《まだチカチカする………………》
「………ぷ、アッハッハッハッハッハ!」
私はおかしくなったのかもしれない。
緊張の糸が切れたのと、死の淵から助かったという状況、そして、頼ろうとして私のことを何ともないと思っていたこいつらが苦しむ様を見て……………
とても気持ち良くなっていた。
死の瞬間からの解放……………癖になりそう………
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