第2話 王都行きは馬車の揺れと心の乱れ

 ガタンゴトン……ガタンゴトン……


「……揺れる……吐きそう……つらい……おしり痛い……」


 俺は今、木製の馬車の中で、揺れに耐えながら胃を押さえていた。  目の前には、きらびやかな銀の鎧を着た騎士が二人。さっきから無言で座っている。なんだこの圧迫感。


「あの、俺ほんとに王都に行かないとダメ? 俺、畑耕したいだけなんだけど……」


「閣下のご命令ですので」


「いや、さっきから、ずっとそれだけじゃん? もっとこう、何をしに行くかとか、詳細情報を下さい!」


「ご安心を。我々は正式な騎士団であり、違法性はございません」


「こわいこわいこわいこわい!」


 どうしてこうなった――。


 あの日、スパイクドラゴンを“収穫”してからというもの、周囲の態度が一変した。近所の村人たちは俺のことを神様のように拝み、無理やり差し入れと称して大量の野菜や保存食を押し付けてくる。


 俺はただ、死にかけて、必死に鎌を振っただけなのに……!



 数日後、俺は王都に連行……いや、護送……じゃなかった「招待」されることになった。 スキルが“魔物の急所を可視化する”特性を持つと知れ渡った結果、王国は俺のスキルを軍事的に活用できると判断したらしい。


「オレのスローライフが……」


 俺は農民なんだが? カマ持ってたのはたまたまだし、訓練もしてない。筋トレ? 耕すので精一杯です。


 なのに――


「陛下はあなたの“収穫適期”に多大な関心をお持ちです。今頃、王宮では盛大な歓迎の準備がなされているでしょう」


「いや、俺は、目立ちたく無いし、変な“二つ名”が呪いに聞こえるのよ!」


 ほんと、どこからどう間違ったんだろう。


 馬車の外はどんどん街並みが開けていく。遠くに見えるのは、白い城壁と金の尖塔。王都だ。


 俺の平穏スローライフよ、さようなら。



「おお、見ろ、あれが“魂刈り”のユウト様だ!」


「大鎌で竜を収穫したという、あの……!」


 王都に入った瞬間から、俺は変な視線にさらされた。 街のあちこちに自分の似顔絵入りのポスターまで貼ってある。なんかイケメン、筋肉マシマシにデフォルメされてるんですけど?


「こっちは虚弱農民だぞ! 詐欺だ詐欺!」


 街行く子どもにはヒーローの様に扱われ、商人からは「新商品“魂刈り鎌”販売して良いですか!」とチラシを押し付けられる始末。


 王都、カオスすぎる。



 王城に到着したその夜、俺は正式な謁見の場に呼ばれた。 玉座の間には煌びやかな装飾、赤い絨毯の先に、王様がドーン。


「うむ、よくぞ参った。貴殿が“収穫の勇者”ユウトであるな?」


「いや勇者じゃなくて農家なんですけど……」


「…………」



 話を聞いてもらえないまま、謁見は進行。俺はなぜか王国直属の“特務農政官”に任命され、あろうことか軍部と連携して魔物の“急所可視化”という無茶な職務に就かされることに。


「ちょ、そんなの聞いてないって! 俺はモンスターよりミニトマトと向き合いたいんだ!」


「安心せよ。貴殿のために、専用の農園も王都郊外に用意した」


「畑で釣るなあああああ!!」


 この時の俺はまだ知らない。


 王都の郊外で始まる新たな畑ライフ――それが、さらなる災厄の“芽”を育てることになるとは。


 次回、「王都の畑で出会った少女」

 農業の天敵“貴族令嬢”登場!?

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