メルカ王国編 第20話「気付かぬ想い。」
その後。セイロンは王子から平民へと成り下がった。しかし、本人は気にしていない様子で、むしろ「ルナティア様と一緒に居れる!」と喜んでいる。セイロンに依頼された殺し屋は、レオンが裏で"色々"して買収済みだとか。彼だけは敵に回したくないと思った。
そして、今までのセイロンの実績と、国民の支持率が高いという事実もあり、多少は目を瞑ってくれるそうだ。
こうして、国王暗殺未遂事件は、幕を閉じた。
そして、ルナティア達は、目的を果たしたので帰国しようとしたのだが。
「事件のことでゆっくり出来ていないだろう。もう少し泊まっていくと良い。」とロイドから誘われたのだ。
そして、何週間か経ったある日。
「ルナティア様!」
謹慎処分を終えたセイロンは、ルナティアに懐いていた。
「セイロン様。平民生活はどうですか?」
「楽しいよ。王子でいた時よりも、過ごしやすいんだ。優しそうなマダムに"色々"したら、空いてる部屋に住んでいいって。」
ニコッと効果音が聞こえてきそうな笑顔である。
「ただ、王子じゃなくなったから、ルナティア様と結ばれるのが難しいんだよね。」
「誰も結ぶとは言ってませんが。」
「あ、駆け落ちすれば良いか。」
「話聞いてます?」
どこまで本気なのか分からないのが恐ろしい。
すると。
「ルナティア壌、こんなところに居たんですね。」
正装に身を包んだルシアがやって来た。
「折角の旅行だというのに、貴方との距離が縮まらなくて寂しかったです。」
「えっと…」
いつもみたいに流そうとしたが、彼の瞳が本音を語っていた。
「なら、観光に行けば良い。」
「ロイド様」
ドアが開き、ロイドが入ってくる。
「セイロン、久しぶりだな。色々話したい事あるから、俺の部屋に来ないか。」
「…ふん、仕方ないから行ってあげる。」
ロイドはルシアにだけ目配せして、セイロンを連れて出ていく。気を使ってくれたんだろう。
「レオン様は…」
「昨日の夜、1人で帰りました。する事があるから、と。なので、今いるのは僕とルナティア壌の2人だけです。」
「そ、そうですか」
ルナティアは不思議な感じがした。
「良かったら、これから一緒に出掛けませんか?」
「…え?」
やって来たのは、市場にある美味しそうな屋台だった。
「そこのお二人さん!うちのお肉食べていかねぇ?」
強面なおじさんが豪快に笑う。
ルシアとルナティアそれぞれ1本ずつ貰い、早速食べる。
お肉は柔らかくて噛みやすく、上にかかるソースもお肉と合っていた。
お肉を食べた後は、デザートのアイスを食べる。
ルナティアがチョコフレーバー、ルシアがミントフレーバーだった。
「あ、美味しい…!」
ルナティアが頬を緩めると、ルシアが幸せそうに微笑んだ。
「ルナティア壌は何でも美味しそうに食べますね。」
暖かい目で言われても、ルナティアは構わずにアイスを食べ続けた。…アイスが、いつもより甘いと感じたのは秘密だ。
その後も、雑貨店や鉱石店など色々見て回った。
気付くと夕方で、人混みも落ち着く頃だった。ルナティアとルシアは微妙な距離感を保ちながら、歩く。
「今日は、お別れパーティーというものをするらしいですよ。」
「へぇ…。メルカ王国は、交遊関係を大事にしてると聞きますし、彼ららしいですね。」
それきり、会話は途切れたままだった。
「あっ、お帰りなさい!ルナティア様」
扉を開いた途端、セイロンが飛び出してくる。
「市場は楽しかった? 」
「はい。良い場所ですね。」
そう言うと、セイロンは満足そうに笑った。
ダイニングルームでは、ティアが料理をしていた。
「あ、ルナティアお姉ちゃん!お帰りなさい!」
彼女は、ルナティアに気付くと駆け寄ってくる。
お姉ちゃん…悪くない響きだな。
「明日帰っちゃうんでしょ?だから、ティアがいっぱいおもてなしするよ!」
「ありがとう」
今夜の料理はいつにも増して豪華で、食べ終えた頃にはお腹いっぱいになっていた。
まだ小さいのに、家事が出来て、気も遣えて、ティアはしっかりした育ちの娘だったのだろう。
「ねぇ、ルナティア様。今日は星がよく見えるんだよ!僕の部屋からだと綺麗に見えるから、来てくれる?」
「おい、さりげなく彼女を自室に誘うな。」
セイロンの頭に、ロイドのチョップが入る。
「あいたっ!何するのさ」
「星なら、"皆"で見ればいい。バルコニーでな。」
「そうですね。そうしましょう。是非」
ルシアが、なぜか乗り気で頷く。セイロンは不服そうだったが。
そうして、バルコニーで見ることになった。
「見て!ルナティア様」
バルコニー越しに見える、無数の星達。ルナティアは、言葉を失うほど見惚れていた。
「綺麗…」
「確かに、セイドン王国はあまり星が見えませんし。」
ルナティアの横に、ルシアがやって来る。
「…ルシア様」
「どうかしましたか?」
ルナティアは、彼らが遠くにいることを確認してから。
「今日1日、貴方と一緒に居れて良かったです。」
「ー!」
ルナティアは、少し笑いながら言った。ルシアはどくん、と心臓が大きく跳ねる。
いつもは、気怠げでやる気のない彼女だが、たまに見せる笑みは破壊力抜群だった。
「…僕も、ルナティア壌と一緒に居れて嬉しかったですよ。」
「そうですか、」
ルナティアは眠たいのか、ふわぁ、と欠伸をする。涙目になる彼女が可愛すぎて、思わず抱き締めたくなったが、どうにか抑えることが出来た。
「そろそろ寝ますか?外は少し冷えますし。」
ルシアの提案に、ルナティアは頷く。
「明日は早いのだろう。今夜はゆっくり眠ると良い。」
ロイドもそう言ってくれた。
彼らの厚意に甘え、ルナティアは部屋に戻る事にした。
部屋に戻ると、疲れが一気に襲ってくる。
『今日1日貴方と一緒に居れて、良かったです。』
ルナティアは、自分の言った言葉を反芻し、眉を顰めた。
「…あんなの、私らしくない。このドキドキも、きっと不整脈に決まってる…。」
ルナティアはそう言い聞かせながら、瞳を閉じた。
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