第一章

1.祓魔師協会へ


 ある晴れた日の事。

レンガで作られた建物の前にひとりの女性が立っていた。

 褐色の肌に若干尖った耳。真っ赤な瞳。左右に分けた三つ編みの黒い髪。見た目だけだと「悪魔」と見間違うほど彼女の容姿は悪魔に似通っていた。

 

 「よし!サジャ!頑張るのよ!」

 サジャは自分の両頬を軽く叩いた。ペチッという音が響く。

 サジャは気合を入れてレンガの建物の扉を叩いた。」


「ようこそいらっしゃいました。サルジャーン・ボワ殿。」

 扉を開けるとそこにはひとりの青年が立っていた。

 とてもにこやかな表情でサジャを見つめている。

 サジャは突然、本名を言われ驚きつつも、しっかり挨拶をした。


「はじめまして。サルジャーン・ボワです。長いので『サジャ』って呼んでください。」

「わかったよ。サジャ。僕はショーン。よろしくね!」

 ショーンはずっとにこやかだ。紫色のストレートの髪が片目にかかり首を若干かしげている。


 サジャは自分の見た目を気にしていないのか気にしているのかその表情からはわからないのが気になった。


 と、その様子に気づいたのかショーンが声をかける。


「いったいどうしたんだい?」

 思い切ってサジャは聞いてみた。


「あの…私の見た目、怖くないですか?」


 ショーンは一瞬真顔になり、しかしまた微笑みながら言った。


「悪魔と祓魔師は対なるものだからね。サジャが悪魔なら祓魔師になろうとこんなところには来ないさ。」

「そういうものですか?」

「そういうものだと僕は思うよ?」


 サジャは正直ホッとした。もしかしたら、ショーンにも悪魔と思われているのではと気にしていたからだ。


「その見た目じゃ確かに周りからは怖れられてきただろうけど、上級悪魔は君みたいな優しい眼をしていないよ。」

 

 上級悪魔。それは人の姿に近い容姿を持ち、褐色の肌に尖った耳。真紅の瞳に真っ黒の髪。背中には黒い羽根が生えているというのが世の見解だ。実際に、サジャは上級悪魔を見た事が無かったが、本では見たことがある。そして羽根が生えているということころ以外は自分に似通っている事に。


「さ、君は悪魔じゃないんだから気にしてもしょうがないしいくよ。サジャ。会長がお待ちだ。」

 そう言ってショーンは歩き始めた。サジャもそれに続く。サジャは、悪魔じゃないと言葉にされた事が少し嬉しかった。


 ここ、祓魔師協会は祓魔師を育成する機関であり、また悪魔退治の仕事を請け負う唯一の場所だった。

 悪魔を退治するという性質から悪魔に狙われやすい為、町からは離れており孤立した場所にポツンと建っている。

 北にはヴァラフェンの森と呼ばれる森が広がっており、南にはロードゥ川がある。

 悪魔退治をするという仕事柄、祓魔師の希望者は少ないのが特徴だ。


 サジャは祓魔師協会の建物内をキョロキョロと見まわしながらショーンの後についていった。

 壁には過去に使われていたのだろう道具類が飾られており、サジャは若干気後れしてしまった。


(がんばるのよ……。私が私でいられるのはこの道しかないのだから…。)


 サジャは改めて自分に気合を入れた。


 と、そこにショーンが声をかけてきた。

「さ、ついたよ。サジャ。扉を開けるよ。」


「会長!失礼致します。サルジャーン・ボワを連れて参りました。」


「どうぞ。」

 

 会長の返事を確認し、ショーンが扉を開けた。

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