仕事、家族、親のことに追われる四十代の男の疲弊が、具体的で誠実に描かれている作品でした。
その疲れを、派手な破綻ではなく、日々の小さな摩耗として積み上げているのが生々しい。
そして物語が良いのは、そこから全部を投げ出す方向へ行かないことです。
ほんの短い逃避の時間があったことで、自分の中のロマンや若い日の輝きを捨てなくていいと気づく。
彼が若いころに塗装までこだわって仕上げたポテーズ25。思い出の中のポテーズ25と娘さんがくれたポテーズ25を彼は小さな時間の中で比較したんでしょうね。
読者の私も共感の中で並べて比較してみて、少し感傷的になりました。
現実に主人公そっくりの境遇の人は少なくないはず。
そんな人たちが少しだけ空いた時間でこの小説を読めば、辛くても破滅せずに現実に静かに戻っていけるのでしょう。