ヤマ

 第七居住区の酸素炉が爆発した。


 死者512名。

 復旧作業は遅れ、遺体の大半は回収不能となった。




「彼らは、ただ日常を生きていただけの、無辜むこの市民でした」




 政府は追悼式を行い、犠牲者全員に「クリーンタグ」を発行した。


 タグは青白く発光し、照合システムにより「あらゆる社会的瑕疵のない存在」として記録される。

 生前の違法行為、思想偏向、暴力傾向、信用スコアの毀損履歴など、すべてを検査し、「問題なし」の者だけが得られる称号。


 モニター越しに、そのタグが並ぶ様子を見ていた。


 青の光が、等間隔で、無音で、整然と並んでいた。




 私は、事故調査班の記録整理担当だ。


 犠牲者リストに照合された元データに、見覚えのあるプロファイルがあった。




 学生時代、私をいじめていたグループのリーダーだった。




 他のデータも確認する。




 煽り運転を常習的に行っていた者。

 違法動画を拡散していた者。

 別れた恋人をストーカーしていた者。

 家庭内暴力で訴えられていた者。




 ――多くの者に、何かしらの傷があった。




 疑問が生まれる。


 名簿の中に、「問題のなかった人間」は、いたのか?


 或いは、私自身は?




 ふと、別の画面に目を遣る。


 政府広報が言う。




「被害者のご冥福を、心よりお祈り申し上げます」




 青い光が、まるでそれ自体が慰霊のように、静かに揺れていた。


 記録ファイルを閉じる。




 私の手元には、タグの申請アルゴリズム最終審査版が残っていた。


 開けば、そこにはこう記されていた。






「死者は白である。生きていた記録の色が、であっても」

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ヤマ @ymhr0926

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