第5話 聖女の苦難

 聖女誘拐事件から数日が経った。

 私をさらった連中は、若い女性や亜人といった捕まえやすい人を捕えては売りさばくという闇商会ギルドなことが、騎士団の調査で分かった。

 ただ、逃走したボスは結局見つからなかったみたい。


 王国で少し問題になっていた失踪問題とも関わりがあったみたい。

 その組織のボスを取り逃がしたとはいえ組織を壊滅させたことで、私は王国から感謝された。

 何せ、問題視されていた失踪事件の解決と闇ギルドの壊滅を同時に行ったことになるんだから無理もない。


 ……でも、私としては複雑な気持ちを隠し切れなかった。

 なぜなら私は犯されたいという理由で、わざわざ捕まって犯されなかった腹いせで暴れただけだったから。


 自己欲のためだけだったから何とも言えない気持ちだ。

 それも果たせなかったこともあり、より一層複雑な気持ちになっていた。


「はぁ……男の人とヤリたいだけなのに……」


 城内の応接間で一人呟く。

 国王様に呼ばれており、今は応接間で待っている。

 すると、扉が開かれてロイドが姿を見せた。


「やぁ、フィオナさん。今回はお手柄でしたね」


「ロイド様。いえ、たまたまですよ。偶然さらわれて、それが闇ギルドだっただけですので」


「それでも凄い功績になりますよ。ただ、ボスの行方が分からないのが気がかりですが……」


「申し訳ありません、私が取り逃がしたばかりに」


 あの時は苛立ちでどうでもよくなっており、ダグラスを叩き潰すことしか考えてなかった。

 正直私の落ち度であるとは思う。


「あのダグラスと戦ってたんですから、仕方ないですよ」


「……ありがとうございます」


「それと、国王様が聖女様に感謝したいってことで、宴会を開いてくれるそうですよ」


「宴会……ですか?」


 そのために今日は呼ばれたのかな?

 美味しいもの食べられるのは嬉しいからありがたい。


「闇ギルド壊滅の感謝のためだそうですよ。今回の件で騎士団の皆さんも頑張ったから騎士団の方も同席するとか」


 騎士団……ということは男の人だよね。

 しかも鍛えられたたくましい男性。


 お近づきになれたら、そのまま夜のお相手ができるかもしれない……!

 これはチャンスでしかない。


「そう言うことでしたら無下にできませんね。出席しますね」


「そう言ってくれると思いました。ちょうど今夜行われるみたいなので」


 それは急すぎるのではと思ったけど、恐らく私の出席は決められていたんだろう。

 まぁ、いいんだけどね。


「分かりました。ですが衣装はどうしましょう? この格好で来てしまってますし」


 今の格好は聖女として戦う時の装備だ。

 軽装備とは言え、流石に武装したまま宴会に参加するのはどうかと思う。


「ドレスは国王様に頼んだら貸してくれると思いますよ。宴会は夜ですし、今夜は城に泊まったらいいですよ」


「ふふっ、ロイド様が勝手に決めてはいけないのでは」


「あ、いや、国王様ならきっと許してくれるだろうってことで……」


「冗談ですよ。それでは、私はお伝えしに行きますので」


 そう言って私は応接間を後にして、宴会の準備を進めた。

 色々準備を進めていると、あっという間に日が暮れ、宴会が行われる時間となった。


「……ということで、闇商会ギルドを壊滅してくれた聖女フィオナ様に感謝の意を込めて。乾杯!」


「「乾杯!」」


 宴会はとても楽しい雰囲気で進んでいった。

 初めは国王様や王妃様、ロイド様と会話をすることに。


 また、多くの貴族の方からも声をかけられ、少し会話を弾ませた。

 でも私の目的はこれからだ。


 私はあまりお酒に強いわけではなく、むしろ弱い方だ。

 酔ったところ、男性騎士とお近づきになってそのまま介抱されながら……


「よし、これでいける……!」


 すでに男性騎士に目星は付けてる。

 あの騎士の方とお近づきに……


「フィオナ様、今よろしいでしょうか?」


 突然声をかけられ、振り返ってみると女性騎士の方たちが私のところに集まってきた。

 え、何?

 私、これから騎士の方とお近づきになろうと……


「あの、私たちフィオナ様に憧れていまして、ぜひお話を聞かせていただきたいのです!」


「えっと……私の話、ですか?」


「はいっ! 聖女様として立派にご活躍されていることは聞いておりますので。この機会にぜひ詳しいお話をしたく思いまして」


 女性騎士たちが目をキラキラさせてこっちを見ている。

 これを無下にするのは心が痛む。


「わ、分かりました。では、何が聞きたいでしょうか?」


 まぁ、すぐに終わるでしょう。

 終わってから男性騎士に言い寄ればいいと思っていた。

 しかし……


「フィオナ様、ありがとうございました! 本当に素敵なお話でした!」


「我々も日々精進して、フィオナ様のように強くて立派な騎士になります」


「えぇ、頑張ってくださいね」


 満足そうに女性騎士たちは私の元から去っていった。

 ……宴会が終わってしばらくしてから。


 そう、宴会が終わった後も、女性騎士たちはもう少しお話をしたいと別の場所で話すことになった。

 その結果、男性騎士どころかロイド様まで自分の部屋に戻ってしまったのだ。


 つまり、今回も誰ともお近づきになれず、私の望みが叶わないものとなったのだ。

 私のために用意された来客用の部屋に戻る。

 

 そして私は自室で服を脱ぎ棄て、下着姿のままベッドに倒れ込む。


「うぅぅぅ……私……私……!」


 呻き声をあげて、枕をぽかぽか殴りつける。

 そして、抱いている不満を爆発させるように、誰もいないこの場所で声を上げる。


「私は淫らに犯されたいのにぃぃぃ!!!」


 叶わぬ願いを絶叫する。

 

 私は知らないのだ。

 私の持つ『無垢なる穢れ』の他の効果を。


 穢れを元に、奇跡や祝福に変換するものなのだが、その効果は私が抱く邪念を穢れとみなし、その邪念の先の結果である穢れを無垢なるものに変換されているのだ。

 つまり、邪なたくらみが叶うことはないのだ。


 そのことを、私は知らない。

 知らないからこそ、理由が分からず嘆くことしかできないのだ。


「聖女とか使命とかそんなのどうでもいいのに……! 私は淫らに犯されたいのですっっっ!!!」


 聖女フィオナ・アシュモーデの苦難は続くのだった。


———―――


 ここまで読んでいただきありがとうございました。

 本作はここで完結と致します。


 PV数やフォロー数が増えましたら、続編の執筆も検討いたします。

 本作のご愛読ありがとうございました。


 よろしければ他作品も投稿していますので、そちらも併せて読んでいただけると幸いです。

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聖女?使命?そんなの興味ない!私は淫らに犯されたいのです! 大和ラカ @raka8rio

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