第3話 心霊スポット
陶子は思い出したようにグラスのチューハイに口を付けた。
「心霊にも色々なタイプがある。心霊スポットにもね。」
「タイプ・・・・・。」
「例えば、病気で死んだ人、事故で死んだ人、そして殺された人。これらの霊が全て『同じ存在』だと思う?」
「違う、と思う。」
「死に至る、即ち霊になる理由はそれぞれ違う。という事は死に対する想い、霊になる事、霊でいる事に対する想いもそれぞれに違うわ。心霊スポットも同じよ。そこであったのは事故なのか、事件なのか。何が起こり、誰が死んだのか。それによって霊にも、心霊スポットにも違いが生まれる。」
「・・・・・南徳病院跡は弱い心霊スポット?」
「そうね。」
「でもさ、」
そこまで言うと浩介は言葉を切って、自分の脇に置きっぱなしになっていたジョッキを取り、中身を呷った。
ぬるい。
「でも、あそこって心霊スポットとしてはすごく有名だ。目撃談も多いし、実際君も心霊写真を撮ってる。それってあそこが強い心霊スポットである事の現れじゃないのかな。」
「沢山の事例があるからと言って、そこが強い場所というわけでは、決してないわ。」
「じゃあ目撃例が多いってどういう事なんだ?」
「そうね。先ず言えるのは、心霊同志は引き合う、という事ね。霊がいる所には、他の霊も引き寄せられる。より多く霊が存在する所には、更に多くの霊が引き寄せられる。他には・・・そう、人が集まるから、かな。」
「人が?」
「見る人がいる事は、霊にとっては重要な事なの。彼らは常に訴える存在だから。例えるなら、観客の居ない劇は、劇たりえない、と言った所かしら。」
「劇って・・・」
「どちらも煎じ詰めれば『念を自らの存在を使って表現する』ものでしょ? これ以上的を得た例えは無いと思うわ。」
「・・・・・」
「心霊スポットはね、結節点なの。霊と人が交わる場所。そうね、大通りに面したコンビニを思い浮かべてみて?」
「???」
「ある瞬間を見た時、そこには沢山の人がいる。何かを買いに来た人、ATMでお金をおろしに来た人、我慢できなくなってトイレを借りに来た人、駐車場でたむろしたいだけの暇な人。」
「ふむ。」
「店の側も色々な人が居る。生活の為にバイトしている人、遊ぶお金欲しさにそうする人、その店の店長、あるいは雇われ店長でオーナーは他にいるかも。もしかしたらフランチャイズ本部から視察に来た人がいたり。それぞれの人にコンビに対する独自の想いがある。想いの強さも違う。」
「要するに、コンビニは基本的には物品売買の場所だとして、集まる人の思惑は千差万別。同じように心霊スポットは、基本的に人と霊が交わる場所だとして、集まる人、あるいは霊にはそれぞれ様々な思惑や念の強さがある、という事か。」
「そんな感じかしらね。」
「強い霊とは、より強い念を持っているもの。」
「恨み、怒り、悲しみ、悔い。種類は様々だけど、より強固な念を抱いている者が、強い霊だと言えるわ。そして、より強い霊がいるのが、強い心霊スポットね。」
「成程・・・・・。ねえ、そのカメラの、他の画像も見せてもらっていいかい?」
陶子は無言でデジカメを手渡した。
浩介はボタンを操作して次々と画像を写していく。
南徳病院跡の写真は先に見た2枚の他にもう2枚、二階の一番奥の物置と外階段を写したものが入っていた。
物置には同じように霧状の塊が、外階段には女性に見える白い人影が写ってた。
更に画像を送ると、かつてサークルで訪れた心霊スポットやそれ以外の場所の写真が映し出される。 その何れにも、悉くに人影や顔、様々な色の光球など、所謂心霊写真として紹介されるようなものが写っていた。
浩介はその量の多さに驚くと同時に、ある疑問を感じた。
「間宮さんはさっき、今日撮った写真はコレクションに値しないというような事、言ったよね。」
「ええ。」
「このカメラには沢山の心霊写真が収められているけど、そのどれもが今日撮られた写真と五十歩百歩のように思えるんだけど。」
「・・・・・」
「君のコレクションって、一体どういう物なんだい? 何故このカメラにはコレクションから除外されるような写真ばかり入ってるんだい?」
「・・・・・」
「もしかして、僕のように興味を持って近づいてくるヤツを煙に巻く為に・・・・・」
「流石にそれは考え過ぎね。」
陶子は彼にカメラを返すように促した。
浩介から受け取ったそれの電源を落とすと、鞄へしまい込む。
「霊媒体質って、分かる?」
「・・・・霊を引き寄せやすい体質、かな?」
「その通り。元々人は多かれ少なかれ霊から関心を寄せられるものなの。さっきも言ったけど霊には生者に訴えたい事がある。感知されたいという意図がある。ただそれにも強弱があるわ。霊に強い関心を持たれる人は、霊を引き寄せやすい。」
「そうなると、さっきの心霊スポットと同じで、一旦霊を引き寄せ始めたらどんどんその人に集まって来るって事になる、のかい?」
「霊媒体質の一丁上がり、というわけね。」
ふと、浩介の中で腑に落ちるものがあった。
「そうか。さっきのカメラの画像は『霊を引き寄せる為』のものなんだな。」
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