高校生軍師コーメーくんの天下三分の計〜『三国志』を武器に異世界で大陸制覇めざします!【三国志が兵法家必須の知識となる!】

カイ 壬

異世界孔明

プロローグ

プロローグ

 ベルンスト・ライトは恐れていた。

 大陸最強である北方のサイロン国。ベルンスト王は、先の戦いで降した小国セビーネの太守を含む英傑三名の身柄を押さえている。


 四十三歳のベルンストと以前より面識のあったセビーネ太守スプリカル・ルクス。三十五歳ながらも初対面から天子の相が現れていた。彼女を自由にすれば、いずれ大国を興されて大陸を制覇されるのではないか、と危惧していたのだ。だからスプリカルは是が非でも倒し、最低でも政治や軍から距離をとらせて飼い殺すことに決めていた。


 大国を興されればスプリカルの部下であるふたりの英傑も必ずや特級の武将となるだろう。


 ワイマール・トラントは三十四歳で体も大きく、達人の風格が漂う。義に厚く筋道を通す性格で、セビーネは小国でありながらもワイマールは大陸最高の武将として名を馳せていた。必ずや引き抜いてサイロン軍の増強に活かしたいほどの逸材である。

 デトマーズ・カリンは三十三歳。背も高く少し腹が出ているもののその眼光は猛虎のように鋭い。つねに酒を飲んでおり、人に騙されやすい一面もありながら一騎討ちではワイマールに並ぶほどの偉丈夫だ。


 そんなワイマールとデトマーズはスプリカルと義兄弟の契を結んでいる。もしスプリカルとデトマーズを処刑すれば、ワイマールはベルンストをけっして許さないだろう。だからワイマールとデトマーズをサイロン国の武将として扱う傍ら、スプリカルは家族とともに軟禁しているのだ。


 武将たちの日課となっている朝稽古では、ワイマールとデトマーズがサイロン国の武将を寄せ付けない圧倒的な戦闘力を発揮している。おそらく匹敵するのは大将軍アンバー・ディコートとシアン・ディコート兄弟くらいなものだろう。


 スプリカルたちを捕らえた戦いは大国が小国を飲み込む単純な物量戦だったが、もし拮抗した兵数・国力で戦えば、サイロン国が敗れる可能性もあっただろう。だからこそ、ベルンストは三人の英傑を放免できなかった。行動の自由を与えるわけにはいかなかったのである。

 そのためスプリカルの家族を厚遇して三人が背きづらい状況を作り上げた。ここまで厚く遇されれば家族も積極的に背こうとは思うまい。


 しかし時は訪れた。

 スプリカルと同姓のルクス家が支配する中原のミドルトン国討伐の軍にスプリカルとデトマーズを参加させたのである。するとスプリカルとデトマーズは接敵する前にミドルトン軍へ逃げ込んでしまったのだ。


 ベルンスト王は激怒してスプリカルの家族を全員処刑しようとしたが、ワイマールが立ちはだかった。

 ワイマールをどうしても仲間に引き入れたかったベルンストは、スプリカルの家族に手を出さない代わりとして正式にサイロン国の武将になるよう説得した。

 ワイマールは戦場で手柄を挙げたらスプリカルの家族をミドルトン国へ引き渡し、ワイマール自身もスプリカルの元へ戻れるようねじ込んできた。



 ベルンストは若き天才軍師ソラン・シーザーに事態を諮った。

「ソラン、ミドルトン国への戦にスプリカルを加えたが背かれてしまった。人質になっている家族を見捨ててだ。これはスプリカルの失点ではないか」

 問われたソランは、状況を正確に把握しようとした。

「スプリカル・ルクスを子飼いの部下にしたいとおっしゃったのはベルンスト陛下ご自身ではありませんか。私は拒否したはずですが」

 少しむくれた顔をしたベルンストはソランを恨めしそうににらむ。


「逃亡されたことは致し方ありません。ですが、こちらにはスプリカル・ルクスの家族と最強の武将であるワイマールが残されています」

「スプリカルの家族を抹殺して範を垂れるべきか」

 ソランの返答は刹那だった。

「それはなりません。もしスプリカル・ルクスの家族を見せしめにしたら、ワイマールをわが国に引き入れることは今後一切できなくなります。ワイマールに武将の座を与えたいのであれば、彼が守るべきスプリカル・ルクスの家族は丁重に扱うべきです。恩を感じて一度ならずともわが国を利する働きも期待できます」


「スプリカルの家族を厚遇すれば、ワイマールを引き入れられる、というわけか」

 またしても刹那の間もなかった。

「いえ、ワイマールは忠義の人。義兄弟の契を結んでいるスプリカル・ルクスの元へ帰るのが一番と考えているはずです」

 ソランは一計を案じたようだ。


「スプリカル・ルクス討伐の軍を編成するとき、ワイマールに大将を任せてください」

「今度はワイマールが遁走するかもしれんぞ」

 大陸一の武将がスプリカルの元に戻れば、最大の脅威になりかねない。

「いえ、もし手柄を挙げれば、スプリカル・ルクスはワイマールを許せない気持ちになるのではありませんか。スプリカル・ルクスの家族は送り返せば受け入れるでしょうが、ワイマールとの間に付け入るスキが生じるはずです」


 ソランの狙いは、共食いさせることにあるようだ。

 ワイマールがスプリカルを倒せば最善。仮にワイマールが死ねばスプリカルの家族を処刑する大義名分を得ることになる。



 ベルンストはソランの献策を入れ、ワイマールにミドルトン国へ攻撃を仕掛けさせることにした。

 文官が多く武将の少ないミドルトン国では、おそらくスプリカルとデトマーズに迎撃を命ずるだろう。ワイマールに大将を委ねて戦わせれば、勝っても負けても禍根が残って袂を分かたざるをえないはずだ。労せずしてワイマールを手に入れられるだろう。


 ワイマールが本気で戦わなかったり寝返ったりすれば、スプリカルの家族を害すると伝える。

 義に厚いワイマールのこと。後顧の憂いはなかった。




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