縁むすびの神と宿命の乙女

秋乃ねこ(旧安土朝顔)🌹🌸

第1話

 桜の木の下で寝ころび、その辺りで成っていた果物を齧りながら、ぼんやりと空を眺めていると「逢結アウムスビノミコトさま! まーた仕事をさぼって!」と青獅の甲高い声が近づいてきた。


「神様の癖に、ここまで仕事をしない神も珍しいですゆ。あ、それマンゴーじゃないですか。僕も好きなんです。一つ下さいゆ」とめざとく果物を強請るのは白獅だ。

 兄の青獅はしっかり者で、弟の白獅はマイペースな性格で釣り合いの取れている兄弟だ。


「お前ら、うるさい。仕事なんて見てるだけ、だろ。してもなくても同じ。それに何もしない事が仕事だって、言われてるだろ、俺。ほら白獅、マンゴーもあるが桃もあるぞ」

「わーい! 両方くださーいゆ」

「こら! 食べ物に釣られるんじゃない白獅」

「えー別にいいじゃないかゆ。くれるんだし」

「そうだぞ。青獅は真面目だなあ」

「逢結尊さまが不真面目なだけです! いいですか? 神とは――」


 やばい、また青獅の説教が始まる。見た目は可愛いくせに、始まると本当にキャンキャン吠える犬みたいにうるさくなる。逢結尊は反動を付けて立ち上がり、雲に乗ってその場から逃げだした。


「あ、青獅、逢結尊さま逃げたゆ」

「あーー! 逢結尊さまー! 本当にちゃんと仕事しないと――」


 遠ざかる青獅の言葉は、最後まで聞こえなかった。

 さて、どこで暇を潰そうか……と浮かんだ場所は一つしかなかった。


「逢結尊、またサボってるのかい」

 産土大神うぶすなのおおかみが白い神衣を靡かせて、部屋に入ってくる。男とも女とも見える顔立ちに、濡れカラス色の髪を一つに纏め、腕を組んで柱に寄りかかっていた。


「産土大神、邪魔してるぞー」

 勝手知る産土大神の屋敷の、桜と桃が咲き乱れる光景を見られる一番いい部屋で横になっている。この部屋から見える景色が一番だ。


「お前さん、いいかげんにしないと、大神に痛い目に合わされるぞ」

「――人間の縁と運命の結び目を見てもしょうがないだろ。てか、どうでもよくないか? 人間がどんな相手と出会っても関係ないだろ、俺には」


 逢結尊は横になったまま、面倒臭そうに投げやりに返事をする。


「――逢結尊、それを見守るのがお前の仕事であり役目なのだぞ。神として生まれて何百年、その役目を放棄してきたのだ。須勢理毘売命殿も頭を悩ませておるぞ」

「――」


 スサノオ系の末席の神として生まれてから、与えられた役目をしたことはない。他の古い神たちとは違い、新参者の自分には物語がない。だから実績もない。

 そんな逢結尊は天界では他の神から「なにもしないのが仕事」と陰で言われているのも知っている。それでも下界にいる人間に興味を持てずに、数百年過ごしてきた。人間だけではなく、他のことのも興味が持てなかった。


 そんな自分をどうにかして役目と向き合うようにお節介をしてくるのが、この産土大神と世話係の狛犬兄弟だ。


「ずっと気になってたんが、そもそも人の縁をつかさどる大国主命様がいるのに、なぜ俺が生み出されたんだ?」


 産土大神は呆れた顔で、逢結尊の前に腰を下ろした。


「今後、人の縁は多様化し複雑になっていく。そうなる前に大国主命殿の補佐を産みだして慣れてもらわんとならんからな」

「――全く興味もわかないんだが」

「はあー頼むから、役目をせんとそろそろ私も抑えられんぞ」


 肩を落とし、大きな溜息を吐いた産土大神の言った意味を逢結尊は、そんなに怒りを産土大神は抑えているのか? と少しだけ悪く思った。

 そしてこの二日後、逢結尊は大神に呼び出された。



 


 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 あとがき


 どうも作者の安土朝顔です。

 いつも読んでいただきありがとうございます。

 カクヨム恋愛小説大賞【ナツガタリ'25】参加作品です。

 ♡や★を入れてもいいよ~という方は、どんどん♡や★を三つほど入れてくださいませ!よろしくお願いします。


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