【第六章完結】すべてのフラグを壊してきた俺は、転生先で未来を紡ぐ

ドラドラ

第一章:おしまい? いいえ、始まりのフラグです

第1話 「ここは俺に任せて行け」って誰が言うかによって何フラグになるか変わるよね

「『ここは俺に任せて先に行け!』ってセリフあるじゃん」


 そう言い出したのは、高校からの幼馴染、中村勇一ゆういちだった。


「漫画やアニメでよく見るやつ?」

「そうそう。大抵は死亡フラグだけどさ、脇役が言うからダメなんであって、主人公が言えば生き残るパターンもあるよな」

「……じゃあさ、主人公の恋人とか仲間が言ったら?」

「うーん……それは、死亡フラグ寄りの生存フラグ?」

「なんだよそれ、曖昧すぎだろ」


 くだらない会話に笑いを零しながら、講義を終えた俺たちは大学近くの定食屋で飯を食い、ルームシェアの部屋へ戻った。

 ――こういう、何でもない時間が嫌いじゃない。


 テレビでは野球が延長十二回、0-0のまま。

 勇一贔屓の赤い球団が大ピンチに陥っていた。


「ここでエラーかよ……ノーアウト満塁って最悪だな」


 勇一はブツブツ言いながらも画面に釘付けだ。

 俺はソファに寄りかかり、スマホを置いて天井を見た。


 打球音が響く。


「うお、セカンドの真正面……ライナー! 一アウト! 二塁踏んで……二アウト! 飛び出してたランナーにタッチ、スリーアウト!」

「一人でトリプルプレー!? 神ってる!」

「ピンチの後にチャンスありってやつだ、サヨナラあるよ!」


 一瞬盛り上がったが、その裏はあっさり三者凡退。

 試合は引き分けに終わった。


「また引き分けか……操真そうまが見てるといつも引き分けだよな」

「だから俺、スポーツ観戦向いてないんだって」


 届きそうで届かない。

 決まるかと思えば決まらない。

 あと一歩がいつも遠い――まるで俺の人生そのものだった。


 ◇   ◆   ◇   ◆   ◇


 俺の名前は旗織はたおり 操真そうま

 取り柄もなければ、特筆すべき過去もない、ごく平凡な大学生だ。


 振り返っても、本当に何も起こらなかった。

 転校してきた可愛い子と曲がり角でぶつかる――翌日には別の男子と付き合っていた。

 誰かを助けたはずなのに、その相手はすぐに別の誰かの元へ走った。


 何かが起こりそうで、結局いつも何も起きない。

 最後まで決まらない人生。


 唯一、ほんの少しだけ『何か』が起きかけたことがあるとすれば――高校時代に隣に越してきた中村一家だ。

 勇一の妹の邦子ほうこちゃんに、一目ぼれした。

 仲良くなれそうだった。

 もしかしたら……という期待もあった。


 だが、学年行事の旅行中、中村一家は事故に遭った。

 残されたのは勇一だけ。

 新しい家とわずかな保険金だけを抱えて、彼はそれを支えに進み続けた。

 甲子園でエースで四番、スポーツ推薦で大学へ――


 俺は隣人という縁で家族ぐるみで応援し、気づけば一緒の大学に進学した。

 でも――

 俺はいつも、ただの傍観者だった。


「なあ、勇一、もし――」


『もし俺が主人公だったら、何か変わってたかな?』


 言いかけて、やめた。

 聞いてどうなるものでもない問いだ。


 ◇   ◆   ◇   ◆   ◇


 翌日の帰り道。

 いつもと違う道を選んだのは、気まぐれだった。


「……なんか変な音、聞こえないか?」


 勇一が立ち止まる。

 耳を澄ますと、低いうなりが地の底から聞こえてくるようだ。

 空気が微かに震える。


 次の瞬間、轟音が世界を裂いた。

 目の前のビルの一部が爆発し、火球と黒煙が空へ踊る。

 瓦礫が崩れ、ガラスが砕け、街の空気が悲鳴を上げた。


「爆発……っ!? なんで――!」

「操真、走れッ!!」


 勇一の声に体が反応する。

 だが爆発は一度では終わらない。

 連鎖する破裂、燃え広がる炎。

 人々が叫び、子供が泣く。


「こっちだ! 早く!」


 俺が手を引こうとした刹那、別方向で破裂音と悲鳴が重なる。

 火のついた破片が飛び交い、空気が焼ける。


「ぐッ……!」


 勇一が俺をかばって破片に直撃し、肩から血が噴き出した。

 勇一はよろめきながらも立ち上がる。


「操真……ここは俺に任せて、先に逃げろ……!」


 その言葉は、脳の奥で凍りついた――あの、死亡フラグの定番。


「ふざけんな! 置いていけるかよ!」

「いいから……行けッ! お前は、生きろ……!」


 振り払われた手先が痛い。

 けれどそれよりも、胸の奥が深くえぐられた。


「誰か……中に取り残されてるっぽい……」


 勇一は血まみれのまま、燃え盛る建物の中へ駆けていく。

 血に染まる彼の背中。

 まっすぐで、迷いがなかった。


 ――俺は、逃げなかった。


 ヒーローめいたことがしたかったわけじゃない。

 使命感でもない。

 ただ――勇一の背が遠くなるのが、怖かっただけだ。

 

 建物は既に壁が崩れ始めていた。

 中で聞こえた声は、勇一のものか、誰かの叫びか、もう判別もつかなかった。

 熱い、息ができない、目が痛い。

 進む先に何があるかなんてわからなかった。

 けれど、それでも足を止めたくなかった。


 だが崩れた天井が、俺を覆った。

 閃光と熱、そして――意識を奪う重さ。

 また何も成し遂げられず終わるのかと思ったその瞬間、耳元で優しい声がした。


「……間に合わなかったか。すまない、人の子よ……」


 ◇   ◆   ◇   ◆   ◇


 気づくと、燃えさかる火も、崩れ落ちた天井も、焼けただれた肌の痛みすらも、すべてが霧のように消え去ったその空間で、俺はひとり、ただ立ち尽くしていた。


 いや、一人ではなかった。


 目の前にいたのは、男とも女ともつかない存在。

 透き通るような白い肌、深淵のような瞳。

 その存在は静かに俺を見つめていた。


「……誰、だ……?」

「私はアストリア。君たちの言葉で言うと、創造神だ。旗織 操真、君に話すことがある」 


 その言葉が、鼓動のように、世界に響いた。


「君には――がある」

「……は?」


 耳に入った言葉の意味は理解できた。

 だが心はそれを認めたがらなかった。


「生まれながらにして、君の力は人の思惑や運命の分岐――つまり物語の起点となる『フラグ』を、無意識に破壊する。恋の芽生え、奇跡の出会い――それらが成立する前に、力が作動して消えてしまうのだ」


 頭の中に昔の断片が蘇る。

 放課後の図書室で邦子ちゃんと目が合い、手が触れそうになったあの瞬間。

 俺は何故か怖気づいて離れた。

 数日後、彼女は事故で死んだ。


 ――あれも、俺が壊したのか。


 アストリアが手を翳すと、薄い光と共に幻影が浮かぶ。

 フードを被る者、煌びやかな衣装の者、小さい子供が映り、それぞれが楽しげに何かを覗き込んでいる。


『もしこの少年が死にかけたら?』

『恋が生まれそうなら?』


 彼らは俺のフラグの行方をゲームとして観察していたのだ。


「君に何かが起こるたび、彼らは期待した。しかしフラグは次々へし折られ、何も起こらなかったかのように幕が下りる。それを長年観て愉しんでいた」


 胸の中が焼けるように痛んだ。


「……ふざけるな」


 拳を握る。

 俺の人生が、誰かの娯楽だったという怒り。

 邦子ちゃんの死も――


「今回の爆発は、彼らの一人が試した実験の結果だ。君の力が友に及ぶかを確かめるために」


 アストリアの声が僅かに低くなる。


「私はすべての世界を管理するのが役目だが……彼らのイレギュラーな干渉が、君の力と複雑に絡み合い、看過してしまった。関与した者たちには罰を与えた。しかし、君も君の友――勇一も、もう戻らない」


 その名を聞いただけで、胸が裂けるようだった。

 友の命が、興味本位で奪われたのか。


「だから提案がある。君の魂を別の世界に転生させよう。そこでは君の力は抑えられ、本来歩むべき物語を生きられるかもしれない。記憶は封じられるが、魂の本質は残る」

「……転生……」


 言葉が胸に響いた。

 やり直せる。

 今度こそ、フラグを壊すことなく、大切な人を失うこともなく――やり直せる。


「……その世界は、どんな場所なんだ?」


 問いかけると、アストリアは少し微笑んで言った。


「不思議な能力はあるが地球によく似ている。文化や環境、言語、単位すらも。私が設計、管理している世界だから、君も適応しやすいだろう」

「……やけに親切だな、神様のくせに」

「……神だからこそ、贖罪の意志を示したいのだよ」


 俺は目を閉じる。


「……行きます。もう二度と、運命に振り回されない。俺の物語は、俺が紡ぐ」


 拳を強く握った。

 アストリアは静かに頷き、手をかざす。

 光が差し込み、白く包まれていく。


「願わくば、今度の人生が君自身の物語になりますように――」


 光の中で、意識は深い海へと沈んだ。


 そして――新たな物語が始まった。


 ――――――――――――――――――――――――――――――


 はじめまして。

 読む専でしたがこの度初投稿してみました。

 読んで頂けたら嬉しいです。

 それではよろしくお願い致します。


 *9/18追記 こちらもともと投稿していた序盤を大幅に改変しております。

 元々読んでいた方には流れは変えていないので影響はないと思いますがよろしくお願いします。

 

 ※作者からのお願い


 投稿のモチベーションとなりますので、この小説を読んで「続きが気になる」「面白い」と少しでも感じましたら、↓の☆で称えるで評価頂き作品への応援をよろしくお願い致します!


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