第5話

 コアラとゴリラは、さっきの使っていないポンプのある部屋へと戻って、壁ぞいに置かれている白い四角い鉄でできた箱の前に来ました。

この箱の中には、キュービクルの「電灯」のけいとうから分配された100ボルトの電気が入り込んでいるのです。

ゴリラがふたをギィギィと音を立てながら開けると、「照明」やら、「コンセント」とかかれた黒いブレーカーがズラリと並んでいます。

これらのブレーカーのスイッチは、すべて切られていました。


「こいつを上げれば、昆虫園が明るくなるってわけか」


 ゴリラがブレーカーのスイッチに指をかけた時、コアラがそれを止めました。

 

「まって、もしかしたら、「ぜつえん」が悪いかも。測定器を使って調べよう」


「ぜつえん?また、新しいのが出たな」


 コアラは腰袋から、ぜつえん測定器を取り出しました。

テスターより、一回り以上大きな測定器です。

ブレーカーの先には、電線を通して照明やコンセントがつながっていますが、それらが正常に使えるかチェックをしなければなりません。

もし、ぜつえんが悪い場合、ブレーカーを入れても、ブレーカーの中の安全そうちが働いて、すぐに切れるようになっているのです。

コアラは、アース線と呼ばれる箱の中の緑の線に、黒いワニの口のたんしを取り付け、もう片方の赤いたんしを「照明」ブレーカーの二次側、つまり、電気が送られる方と逆側にあてがいました。

準備ができると、測定器のスイッチを入れます。


「…1メガオーム計測。ギリギリ大丈夫だよ」


 どうやら、ぜつえんは大丈夫なようです。

コアラがブレーカーを入れると、ようやく、暗い機械室から外へと出ました。

しかし、ゴリラが期待したような、明かりはまだついていません。


「マーチ、どうなってる?ブレーカーは確かに入れたぞ」


「そしたら、照明が切れてるんだと思うよ。脚立と、すいぎんとうが必要だね」


「すいぎんとう?おいおい、次から次へと、俺の知らないコトバばっかりだな」


 すいぎんとうは、がいとうに使われる照明です。

しかし、この動物園は色々なところがすでにLEDと呼ばれる長い寿命を持つ照明に切り替えられ、すいぎんとうのような古い照明が残っているかは、分かりませんでした。


「とにかく、探すしかねぇか」


 ゴリラがそう言って、二匹は倉庫へと向かいました。

 一方で、黒ひょうはひたいに汗をにじませながら、ずっと草むしりを続けています。


「これは、なかなかしんどいな…」


 いつの間にか、首にタオルを巻いて、麦わらぼうしをかぶり、ZARDOの「負けちゃダメ」を口ずさみながら、根本からずぼずぼ草をむしっています。

横でハンディせんぷうきを使いながら、がんばって〜、とめひょうが見守ります。

すると、誰かが黒ひょうの前に現れました。


「せいが出るな」


「…!」


 黒ひょうはとっさに身構え、ガルル、と喉の奥で恐ろしげな音をたてました。


「去れっ!さもなくば、のど元に食らいつく!」


 現れたのは、なんと王様でした。

王様は表情を変えません。

いかくにもどうようしない、王の風格があります。

そして、口を開きました。


「お前に、支援をしたい」


「必要ないっ!ただちに、立ち去れっ」


「…そうか」


 王様は少し悲しい目をしましたが、さり際にこう言いました。


「お前たちの成長、しかとこの目に焼き付けたぞ。ほこりに思うぞ、我が息子よ」


「…っ!」


 黒ひょうは、その言葉に胸がつっかえ、目に熱いものがたまりました。

その言葉は、王様から黒ひょうへの、始めてのねぎらいの言葉でした。

 王様には子供がいませんでした。

仕方なく、ようしを取ることにしましたが、ホワイトタイガーと黒ひょうを息子とは認めていなかったのです。

二匹は王様の子供のだいりでしかなく、始めは見向きもしていませんでした。

しかし、二匹が成長するとともに、王様の考えは変わりました。

こうけい者にするなら、「この二匹」以外にありえない。

いつの間にか、二匹に愛情を感じていました。

王様は、歌が好きでした。

ホワイトタイガーのリアムも、黒ひょうのエメルダも、歌が好きなのです。


「ああ、間違いなく、二匹はわたしの息子だ」


 まだ幼かった二匹を見て、王様はそう思ったのでした。

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コアラパトロール ー黒ひょう編ー oga太 @oga12

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