21.勧誘ストライクっ!


 ダブルデートっ……二組のカップルが一緒にデートするというあの陽キャしか執り行えないというあの……!?

 しかもそれを花火大会でなんて……なんて、なんて青春すぎるんだろぉー!


 実は自転車で20分ほど行ったところの河川で毎年この時期になると、色ない夜空に彩り豊かな花火が上がる。

 小さい頃は両親が連れて行ってくれたけど、中学生に上がってからは部屋で音だけを聞いてたっけ……。

 気にも留めなくなったせいで忘れてたけど、まさか……今夜が花火大会当日とは!?


「だぶだぶぶぶ……」


 わたしは頭から煙をプシューと出しながら、花火大会にいる未来を妄想した。


「もかちゃんが故障した。冷房の温度下げようか」

「ももももしかして、久蘭くんを誘うのって……」

「もちろん紅野くんが誘うんだ。リアルでもチャットでもいい。とにかく少女漫画らしい感じで!」


 そんなこと言った菊池先輩は、友理菜先輩にすぐしばかれてはいたけど、まぁ仰る通り誘うならわたししかいないんだよね。先輩たちはリアルで会ったことないんだし。


「で、でもダブルデートって、そんな人多いところに菊池先輩行って大丈夫なんですか……?」

「まぁ心配だけど、私がちゃんと支えるから大丈夫だよ」

「そして友理菜をオレと紅野くんが支えるというわけだ。どうだ、問題ないだろ」

「……うるさいし」


 微笑ましいな〜……なんて、のほほんと見ている場合じゃない!?

 次の主人公になろうとしているのはわたしだっ!?


「どうやって誘えばいいんだろ!?」

「普通でいいんじゃないの?」

「ふ、ふつ。えっ、えと、まずRINEで連絡して、アポイントメントを取ってから電話? それからリアルで待ち合わせてから手紙に書いたものを差し出して誘えばよろしいでしょうか?」

「何段も構えていた方が緊張多いだろう。まぁ、それも少女漫画かな」

「でもいきなり切り出すのもなぁぁぁ……そもそも久蘭くんは学校に行かなくなっただけで、地元には友達いてその子たちともう行く約束してるかもだし。えっ、そもそも恋人いる可能性もあるんじゃないの!? だって久蘭くんだしぃ!」

「もかちゃん落ち着いて。独り言は饒舌なのね」

「はぅ!? うぅぅぅ……すみませヴヴヴヴ!?」


 唸っているとスマホまで唸って釣られて同じ声出してしまう。

 相手は……噂の久蘭くん!?

 スマホを両手で大切に握り先輩方に助けを求めたけど、(自分が出なさい)と言いたそうに二人同時に頷いた。


 うぅ、でも覚悟を決めるしかない……!


「はい! お世話になっております紅野もかです!」

『──ほんと相変わらずだな、紅野は』


 ここ最近ずっと毎日出会っていた久蘭くん。一日会わなかっただけなのに、彼の声にとても懐かしく感じた。

 すると、先輩たちは空気を読んですーっと側から離れる。

 一人にされたけど、わたしは久蘭くんに夢中で気にもしなかった。


「え、へへ……お恥ずかしい……。どど、どうしたの急に電話なんて!?」

『どうしても今日、伝えたいことがあってさ』

「えっ!? う、うん、実はわたしも……!」

『あ、そうなんだ』


 今日言いたいことがあるって……まさか久蘭くんから花火大会のお誘いがっ!?

 ぃ、いやいや〜そんなまさか〜ねぇ〜。でもありえるっっ!!


「久蘭くんから言っていいよ……!」

『分かった』


 わたしはドキドキと言葉を待つ。……けれど最近、順調に行きすぎて調子に乗っていた。

 大地を優しく照らす満月もあれば、闇を連れてくる新月だって交互に訪れる。良いことがあれば、その分悪いことだって……。

 せめて話を先に譲らなきゃ良かったって、わたしは後悔することになる。


『……しばらくの間、会えなくなる』

「会えなくなる……えっ……なん、で?」

『夏休みの間さ、予備校に行くんだよ。国公立の大学受験に向けた夏期講習。期末テストもあまり良くなかったからさ』

「でも点数は上がってたんじゃ……!」

『もちろんそうだけど、春先にはもう行くって決めてた。ごめん、伝えるのが遅くなって』


 ……別に謝ることじゃない。

 勉強を頑張ることは久蘭くんの夢に繋がることだから、無理して引き止めれられないし、そうしたくない。

 と、伝えたかったのにどうしても上手く言葉がまとまらなくて何も言えなかった。



『紅野は?』

「……ぇ?」

『何か紅野も伝えたいことがあるって』

「あ、あぁ……何だっけ。何言うか忘れちゃった……! へへ……」

『そっか……。ごめん』

「ううん。ここまで青春するの手伝ってくれてありがとう」

『それはこっちのセリフだよ』


 すると、扉のノック音が電話口から聞こえる。


『ごめん、じゃあ』

「ぅあ、うん……」


 わたしは耳元からスマホを離す。電話が切れる音が小さく聞こえた。

 最後まで謝罪の言葉を聞いた。

 最後までわたしは伝えたかったことを何も言えなかった。

 この数ヶ月、久蘭くんや先輩方と出会って、色々な経験をしてきてたのに……結局わたしは、何も変わってなかったんだなって──



「──何を落ち込んでいる。少女漫画らしくないぞ」

「菊池先輩……い、いやぁ花火大会誘えませんでした……わたしってほんと意気地なしでして、へへ……」

「そうか、電話じゃダメだったか。ならば、次は直接誘いに行くしかないな」

「はい……へ?」

「その男も少女漫画的にここから近くに住んでいるんだろう。家の場所は知っているな?」

「し、知ってるというか覚えてるというか、えっ、今から行くんですか!?」

「花火大会は今夜だぞ。少女漫画は止まらないぞ!」


 菊池先輩の暴走を止めて欲しくて友理菜先輩に助けての視線を向けたけれど、


「水、塩タブレット、冷却シート、枕、ん?」


 めっ、めちゃくちゃ準備してるぅ……!?


「いいか紅野くん! 少女漫画の心得を君に授けよう。それは暴走機関車になることだ」

「ぼぼぼぉぼ暴走!?」

「進むことを止めるな、ブレーキを踏むな。事故ったって構わない。ぶつからない限り目の前の壁は壊れない。伝えたいことも伝わらないぞ。少女漫画は先制攻撃が重要だ! 気持ちのままに行けっ!」

「……っ、わたし、うさダッシュします……!」


 菊池先輩の扇動に、わたしの心に火がついた。

 わたしはウサギも亀も置いていくスピードで、「「うさダッシュ?」」と疑問符を浮かべながらの先輩方と一緒に家を飛び出した。



   ◇ ◇ ◇



「19時から説明会があって、そこで実力テストもあるから。なるべく上のクラスに入るためにも、それまで勉強してなさい。スマホは預かっておくわね」


 母がそう言い残し、部屋の扉を閉めた。

 電気は付けているはずなのに、カーテンを締め切っているせいか妙に暗く感じた。十数分前に紅野に電話で伝えた内容のせいか。

 本当は今夜、花火大会があった。

 本心では一緒に花火を見上げたかった。

 もっと前の日から誘えば良かったが、運悪く説明会と時間が被ってしまった。ドタキャンするくらいなら何も言わなくて良かったかもしれない。


 ……紅野のお陰で、夢に向かって夏期講習も頑張ろうと思えたのに、むしろ今は紅野に会いたいとワガママが出ている。



「「「──くーらんくーん! あーそびましょ!!」」」


 ほら、紅野の声で幻聴まで聴こえてきた。……いや、外が騒がしいのは本当だ。

 カーテンの隙間から覗いてみると、そこにいたのは


「紅野!?」


 汗だくになりながらも遊びに誘う紅野と、知らない男女が家の前にいた。


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