2話 戦闘態勢



「テメェ、何もんだ……?」


 ユウガがそう聞くと、フードの男は黙ったまま立ち上がり、ファイティングポーズのようなものを取る。

 それを見てユウガは舌打ちしつつ、答える気はねぇか、と呟きつつ構える。

 一瞬の静寂。しかしそれは、ラナが屋根によじ登ってきて着地した瞬間に破られた。


 フードの男が殴り掛かり、ユウガはそれを頭を動かして回避。

 アッパーのような拳を放つも、間一髪で寄せられてしまうが、右足を軸に、左足で横脇腹を蹴り飛ばす。

 フードの男は「くっ!?」と声を出して、吹き飛ぶが、ユウガはさらにそこに追い打ちをかける。


「っ!!」


 ユウガの蹴り。

 フードの男はそれを転がって避けてその勢いのまま立ち上がり、腰からナイフのようなものを取り出す。

 ユウガはそれを見て、少しばかり瞳を揺らす。


 ───……ドラゴンの、? いや、ナイフ……ドラゴンの鱗のナイフか。


 ラナもそれを見て目を見開いていたのでユウガは確信する。

 ユウガ自身、冒険者であるがために知識はひとしきりある。

 ドラゴン族には、通常の龍のような体型のドラゴンと、半分人間の2種類がいる。ドラゴン族の人間は剥がれた自身の鱗を使って武器を作り、それで応戦するのだ。

 ラナもその1人だ。だが、逃げ回ってきたからか、何も道具も持っていなかったのだ。


 ユウガは重なる不自然に疑問を抱きつつ、ナイフを素手で止める。


「……裏切り、者……シス、死すべし!!」

「あぁ? 裏切りもん?」


 その言葉にユウガは眉間にしわを寄せる。

 逆手に持ったナイフを素手で掴み、力を込める。


「とりあえず……死ねっ!!」


 ナイフを粉々に砕き、再び蹴りを放つ。

 屋根から落下したフードの男は血を吐き、道路に倒れる。人々がその光景を見て、ざわざわと声を上げている。


 ユウガは道路に降り立ち、ラナを見る。


「お前、なんか裏切ったのか?」

「してないよ、そんなこと!」


 ラナは首を横に振って言う。

 ユウガはさらに訝しげに見るが、直ぐにその顔をやめてフードの男を見つめる。

 ユウガはフードを脱がせ、顔を覗こうとするが、炎がユウガに放たれた。


 ユウガはそれを後転して避けて、見上げる。

 上には、ドラゴンの翼を持った人間の姿が。


「……」

「なんだテメェ、邪魔すんなよ」


 ユウガはイラつきを全面的に出しながら、指を下にビッと指して降りてこいと言う。

 だが、男を回収して、どこかへと飛び去ってしまった。ユウガは舌打ちを再びしてから、ラナに近づく。


「やっぱお前全面的に嫌われてるらしいな」

「そんな……」


 ラナは不安そうな顔をするが、ユウガはあっけらかんとした顔をする。

 ラナはそんなユウガを見て、頬をふくらませた。


「もう少しなんか、こう……言ってくれないの?」

「なんでお前にそうやって言わないといけねぇんだよ」


 そう言って、ユウガは歩き出す。そのユウガの後を追いかけるラナ。

 2人は、その場から離れていくのであった。








◇◆◇










「ドラゴン族の村ぁ?」

「うん。戻って何があったか確かめたい」

「あんなに狙われてんのにか」


 ラナはうぐっと声を出す。

 実際その通りであり、それはラナもヒシヒシと感じていたことだ。

 だが、何もしないで動かないという考えは、ラナの中には無かったのだ。


「もしかしたら、何か分かるかもでしょ?」

「それがわかる前に死んじまったら意味ねぇだろ」


 再び彼女は唸りを上げる。

 ラナの顔にユウガはため息を着く。ユウガは顎に手を当てて、言った。


「隠密しながら行けばいいんだろうが」

「! そっか!」


 ラナはポンッと手を叩き、近くの草を毟る。

 毟って毟って毟って……そして、それを自身の体に纏わせて、さらに毟って……。

 そして、草だらけのラナが出来上がった。


「これでいいでしょ!?」


 ユウガは眉間に手を当てた。


「ここまで馬鹿だったとはな……」 

「馬鹿じゃないし!!」


 ───……馬鹿だろ。


 ユウガの心の声は虚しく届かない。

 ラナはむふん。とドヤ顔のまま歩き出す。まるで着いてきても言わんばかりに。

 ユウガはそのままUターンしていくが、こらー! と怒るラナの声で立ち止まる。


「なんでテメェの手伝いをしなきゃなんねぇんだよちくしょう……」


 ブツブツと呟きながらも、歩き出す。

 辺りが真っ暗になった辺りで、再びラナが口を開く。


「……ねぇ、野宿ってできる?」

「なめてんのか」


 ユウガの言葉にラナは顔を歪ませて、「すまぬ……すまぬ……」と呟く。

 ユウガはもう何度目か分からないため息を吐いて、周りを見渡す。

 木をポキリと折り、枝と枯れ木を集める。


「テメェドラゴンなんだろ。火を噴いてみろよ」

「よし! 分かった!」


 ラナが息を吸い、炎を噴いた。

 ゴオオオッ! と大きな音とともに木の枝が消し飛んだ。


「アホか! 誰が木の枝消し飛ばせつったよ!!」

「ごめん! 本当にごめん!!」


 ラナが手を当てて何回も謝る。

 再び、威力の調整をしたラナは炎を噴きだした。ぱちぱちと燃える木の枝の上に枯れ木などを乗せていき、簡易的な焚き火を作る。


 ユウガはバッグから食料を取りだして、それを開ける。

 美味しそうな匂いがラナの鼻をくすぐり、涎を垂らす。


「……私も欲しーなー、なんて……?」


 ───……うっぜぇ。


 心の中で悪態をつきつつ、それを手渡すユウガ。

 ラナはそれを見て、声を上げた。


「ユウガは?」

「それで最後だ。やるよ」

「……じゃあ、半分ね」


 ラナがその食料を半分に割って、ユウガに差し出す。

 ユウガはそれを受けとり、目を細める。

 ラナは美味しそうにそれをゆっくりと頬張り、味わってから飲み込む。

 ユウガはそれを口の中に放り投げてすぐに飲み込む。


「とっとと寝ろ」

「うん。ユウガもね」


 ユウガはラナの言葉に鼻で笑う。

 ラナは枕のように木の根に頭を預けてゆっくりと目を閉じる。

 数分した後に、ラナの静かな寝息が静寂と共に訪れる。

 ユウガはそんなラナを一目見たあとに、木の幹によっかかり、そのまま寝ずに、夜を明かした。


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