1話 始まり始まり……
「……ん、ん!?」
彼女は目の前の光景を見てガバッと起きた。
傷だらけであったその体には包帯がしっかりと巻かれており、傷を塞いでいた。
そして、何よりも服も近くに置かれていて、整っていた。
彼女は目をパチパチと瞬かせて考え込む。
(誰がこんなことを……? もしかして、通りすがりの人が……)
そんな希望を抱き、彼女は隣を向く。
そこには、モシャモシャと窓で外の光景を見ながらパンを食べている黒ずくめの男の姿があった。
ほっぺにある斜め十字の傷が特徴的で、その瞳には光など宿っておらず、黒い瞳であった。
彼女はそんな男に、ドキリとした。
(この人……が、助けてくれたんだよね……?)
光のないその瞳で見つめられた彼女はそっぽを向く。
そして、しばらくの静寂の後に男が口を開いて声を上げた。
「おい、お前」
「……」
彼女はゆっくりと男の方を向く。
男はパンを飲み込み、彼女に問いかける。
「お前、名前は?」
「……ラナ」
ラナはそう淡々と伝えた。
男は訝しむようにラナを見るが、すぐにため息をついて態度を元に戻す。
「お前、その傷は何があった?」
「……ちょっとね」
ラナがそう言うと再びため息をついて首を横に振る男。
男は椅子にかけていたモッズコートを手に取り、扉に手をかける。
ラナは、そんな男を見て再び目を瞬かせて
「えぇ……?」
困惑の声を上げた。
ラナ自身、自分に何があったか覚えている。聞かれると思ったから濁しただけであり、実際はちょっとどころではない自体なのだ。
男は、そんなラナを助けて名前を聞いた後に出ていこうとしている。
「いや、ちょっ、もう少し聞いたりとかしないの!?」
「……知るか」
男は淡々と答えた。
それにラナは白目を向いてさらに困惑した。
「私の事とか、他に聞かないの!?」
「興味無い、それと単純にドラゴン族の問題だろ? 首を突っ込みたくねぇ」
ラナはうっ、と言葉を飲み込んだ。
ドラゴン族。
この世界には、人間の他に様々な種族がいる。ドラゴン族もそのうちの一種族だ。
嘗ては様々な場所でその名前を轟かせていたドラゴン族だが、年代が進むにつれ、数を減らした。それに伴うかのように、人間や様々な種族が力をつけ、さらにドラゴンに対抗出来るようになってしまった。
つまり、今のところで言う『絶滅危惧種』となんら代わりは無いのだ。
隠していない角を抑えて、ラナは口を尖らせた。
男は出て行ってしまい、部屋にはラナのみが残る。
「……って、待てーっ!!?」
ラナは服を手に取り外に飛び出した。
◇◆◇
「興味無さすぎじゃない!? ねぇ、これでもドラゴン族って数減らしてるんだけど!?」
「んなこと知るか。テメェが死ねば絶滅する訳じゃないだろ」
「あーっ!? 人に死ねって! 死ねって言った!!」
───……めんどくせぇなコイツ。助けるの間違えたか??
これが彼……ユウガが最初に浮かべた感情であった。
ユウガ自身、助けたのは単純に気まぐれである。もしかしたら助けなかったかもしれないし、トドメを刺していたかもしれない。
それにも関わらず、
「なんで付いてくんだよ」
「えー? あなたの名前聞いてないもの」
「聞かなくていいだろ」
「助けた人の名前は覚えたいの!」
───……めんどくせぇ〜〜〜〜!
ユウガは顔を顰めた。
最も、そんなことと裏腹にラナは目をキラキラと光らせ、様々なことを聞いてくる。
やれ「何歳なの」、やれ「頬の傷はどうしたの?」、やれ「どうやったらそんなに身長高くなるの? はっ倒すよ?」…………。
「うっせぇな、黙ってろや!!」
「いやいや、黙ってる訳にも……!」
まるで夫婦漫才か、といわれそうな勢いなのだが、そこで2人が止まる。
ラナは、本能的に。ユウガは、その殺意に察して立ち止まる。
「……なんかやらかしたんだろ、あぁ?」
「まぁ、ちょっとね……」
瞬間。
「っ!」
「んっ!?」
ユウガがラナの襟首を掴み、引っ張る。
先程までラナがいた場所に、大きな炎のブレスのようなものが吐かれ、地面が溶ける。
ユウガは舌打ちをして、襟首を掴んだまま走り出す。
「わわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわ!!?」
「舌噛むなよ死ぬぞ」
「んむっ!?」
───分かりやす。
ユウガは心の中で唸った。
とはいえ、扱いやすいことに変わりは無い。と割り切ったユウガは目の前を再び見る。
またもや、ブレスが飛んでくるのをラナを持ったままバク転し避ける。
そして、路地裏に隠れる。
「……ちっ」
舌打ちをした浮いている黒いフードの男は路地裏に向かおうとその翼を羽ばたかせるも。
「オラっ!」
「ごフッ!?」
路地裏から出てきたユウガに喉を膝で蹴られて屋根の上に落ちる。
屋根の上で、ゲホゲホと咳き込んでいる男を見て、ユウガが呟く。
「テメェ、何もんだ?」
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