地雷なアイツがウザすぎる

@20110607

第1話

「懐かしいね~この写真。あ、この時の純、拗らせてたじゃーん!」

「いや、そっちの方だろ、それは」

「え?私は常に一途でしたけど?」

「それ言うたびに、アルバムに証拠増えてんだよなぁ…」

「うっさい!でも…ふふ、この頃の私たち、バカみたいでかわいいね」

「“この頃”じゃなくて、今も大概だけどな?」

「……ふふっ。……でも、大好きだったな、この日」

「……ああ、俺もだよ。たぶん、全部が、もう」


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1話 豹変


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教室。 俺はいつものように、机に伏せていた。

世間では“GW明け”とか言われてるが、そんなもん知ったこっちゃない。 人が連休でリフレッシュできるかどうかなんて、家庭環境か性格の問題だ。 俺にとっては、単なる“授業が再開されるだけのめんどくさい日”でしかなかった。

心の中で、何度目かの溜め息をついたとき、 ふと、思った。

「……俺の人生は、何もない」

陰キャでも陽キャでもない。 幸せかと言われれば微妙。不幸ってほどでもない。

「……何か、人生変わることねぇかな……」

その“なにか”を、俺はラブコメに求めたりしない。 あんなもん、妄想の産物だ。

――そうだよ、たとえば教室のドアがバンッと開いて、 超絶美少女が入ってきて、 「やっと見つけた…運命の人」なんて言い出して―― そこからラブコメが始まるとか……

「……はぁ、バカバカしい」

そんな物語、現実に起きるわけ――

がらっ

(あれ?)

思わず顔を上げた。

教室のドアが開いた。

(……誰だ?)

転校生――?

いや、違う。 どこか見覚えのある、でも、知らないような。

背筋がぴんと伸びて、 ピンクのセーターに、レースのスカート、 毛先は赤く染められたツインテール。 顔立ちははっきりしていて、でも、どこか不安そうな目。

(え……美人?)

一瞬、クラスの誰もが静かになった。

……まさか、こっち来る?

目が合った。 ヤバい、ガン見してる。なんで!?こっち来んなこっち来んな!!!

(やめろやめろやめろ、来るなって――)

「じゅ、じゅ、じゅ……純くん!!!」

(は???)

「見てっ!!地雷系に、イメチェンしたよ!!」

――プリキュアの決めポーズみたいに、両手を腰に当ててポーズ決めてる。

な、な、なんだこの子!?

「……え?誰……?」

頭が混乱する中で、かろうじて出た言葉。

「……そもそも誰だよ!!!」

相手は、一瞬だけ驚いた顔をしたけど、すぐに、目を伏せて、ぽつりと。

「……若本明良……だよ」

(……え!?)

思い出した。

最後に会ったのは、たしか……GW前。 地味で、目立たなくて、でも、たまにこっちをじーっと見てる。

小学生の頃は、毎日俺の隣にいて、勝手に結婚の約束とかしてた、 “あの”明良!?

「……う、うそだろ……アイツが……?」

変わりすぎて、もはや別人だった。

でも、その顔の奥に、少しだけ、あの頃の雰囲気がある。

「……なんで、だよ」

言葉が漏れる。

すると明良は、胸の前で小さく握り拳を作って、 俯きながら、でもはっきりと。

「……純の、ため……だもん」

(……は!?)

(え、なにそれ、意味が分からないんですけど!?)

完全に混乱している俺を置いて、 明良はモジモジしながら、ツインテの端をいじっていた。

(いや、なんなんだよ……地雷系って……恥じらいMAXなんだけど……)

「ひ、久しぶり……あ、あの、席、となり、空いてるから……」

(え……ここ?)

「し、し、失礼しますっ!!」

そのままガチガチのロボットのような動きで、 俺の隣に腰を下ろした明良。

周囲のクラスメイトたちはざわつきながらも、 すぐにまた興味をなくしたように自分の会話に戻っていった。

だが俺だけは、脳内処理がまるで追いつかず、フリーズしていた。

(……え、なにが起きてる?なにが始まるの?)

教室の隅で、ツインテの地雷女が俺の方をチラチラ見てきている。

視線が合うたびに、顔を真っ赤にして下を向く。

(……地雷……だよな?)

(あの恥ずかしがり方……記憶の奥にある、アイツだよな……)

(……なんで俺のために、変わったりしたんだよ)

何もかもが分からない。

だが――

この時の俺は、まだ知る由もなかった。

……そう、 この日から“アイツのウザさ”に、 俺は毎日、振り回されることになるなんて。

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