白い食堂
オカルトサークルに入った。ここでは大学の中から外、あらゆる怪現象、都市伝説、超常現象を調べていて、本格的に調査に行くこともあるらしい。
所属している人たちを見て、どう見てもヤリサーの部類ではないのは一目瞭然だったけど、ここまで本格的だとは思ってなかった。
呪物とか呼ばれている物も一部保管していて、活動に慣れたらいつか見せてくれるという話だ。呪物には興味無いけど。
今日はサークル長の山形さんの提案で新人の歓迎もかねて大学内のちょっとした都市伝説的なものの調査を行うそうだ。
なんでも昔、食堂が改装される前にボヤ騒ぎがあり、その際に亡くなった人の幽霊が今も彷徨っているという。そんなありきたりな話だった。
私たちは私を含めた新人三人と山形さん、それから二年の坂巻さんと一緒に食堂へ向かった。
食堂は大学の食堂というだけあって結構広い、ただ改装したという割には古い感じがした。本当に改装したのだろうか。
「さて早速調査といきたいけど、その前にこの食堂で起こったと言われているボヤ騒ぎについて話そう。50年前のある夏の日の事だ、当時この食堂は夏休みで10日間ほど営業していない時期だった。そんなタイミングを見計らって、その日とあるサークルが食堂の利用を申請していた」
山形さんがこの食堂で起こったとされているボヤ騒ぎについて話し始める。
「申請して使用していたのは何を隠そう我がオカルトサークルだった。つまりこれは我がオカルトサークルに代々伝わっている話なわけだ」
山形さんの語りに、新人の一人が質問する。
「その話って本当なんですか? 僕も噂は聞いた事があったんですけど、当時の記事とか見て見てもボヤ騒ぎとかそんなもの一つも出てきませんでしたよ」
「俺は信じているよ。宮本君の言う通り確かにハッキリした証拠はない。ただの言い伝えのようなものさ。でもねそれでも噂があるなら可能性はあるってことになるだろう? 少しでも怪しければ調査をする。それも立派に俺らの活動の内なんだ」
私は山形さんの話を聞きながら食堂内を見回した。沢山の椅子と机があり、厨房は丸見えで、厨房側だけ今は電気がついていない。
そこで私はふと疑問に思う。こんな近場にあるのに今まで調査していなかったのかなと。
「この調査、今回が初めてなんですか?」
「うん? いいえ違うわ、新人の歓迎もかねて毎年やっているのよ。一度調査しても次に調査した時には何かが起こるかもしれない。タイミング次第で事象に変化があるなんて、どんなことにもある話でしょう?」
隣に居た坂巻さんに聞いてみると、確かにそう思えるものの、それではここで幽霊に出会える確率はかなり低いんじゃないかと落胆した。一体何回目の調査だよと。お前ら一度でも見たのかよと。
ああ、なんだかつまらない。
私はもう山形さんの話に飽きていた。ここで何があったかなんてどうでもいい。とにかく幽霊に会って話がしたい。ボケッとそんな事を考えていると、私が話に飽きたのを察したのか坂巻さんが話しかけてくる。
「ここで亡くなった人の話なんだけどね。実は死因はボヤのせいではないらしいの」
「違うんですか?」
「実は自殺したらしいのよ。そこの厨房の包丁でね」
「はあ、それはまたずいぶん痛い死に方をしましたね」
「しかもそれだけじゃなくて、そのひと自分に包丁を刺したまま大型冷蔵庫に入ってたらしいわ。後でわかった話では死因は失血死ではなく凍死だったという話よ」
「意味が分からない。態々自分に包丁刺しておいて、それじゃあ痛いだけ損じゃないですか」
「そう思うでしょ? 私も最初はそう思ったわ。でもその亡くなった人はここを使っていたオカルトサークルのメンバーだったのよ。当時はオカルトといえばもっとサブカル的ではなくて陰湿で暗いものだっただろうし、本気で呪術を信じていた人もいた。たぶん何かの儀式を試したんでしょうね。やることが過激だわ」
なるほど、その結果が後のオカルトサークルのエサとは、可哀想な人だ。
「それで、ここでの噂はどんなのがあるんです?」
「そうねえ、よく聞くのは焼けた真っ黒い人影を見たとかなんだけど、その他だと冷蔵庫の白い手が有名かな。ほらここから見たら中央奥に大型冷蔵庫があるでしょ? あの冷蔵庫の扉が勝手に開いてることがあって、閉めようとすると白い手が冷蔵庫の中に引き込もうとしてくるんですって。まあ、私たちは見たことないけどね」
「へー」
ならその手に逆らわなければ、幽霊に会えるのか。
その時、ふと厨房に目をやると細い光が漏れていた。それは冷蔵庫の扉がわずかに空いて漏れた光だった。
私はそれを見て躊躇なく厨房へと向かった。後ろに聞こえる坂巻さんの静止の声を無視して。
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