魔獣学園からは出られない

ぬまのまぬる

序章

 広場でぼくは震えていた。


 たくさんの目、ぼくに向けられたたくさんの武器。


 その中で一人、泣きそうな顔で立ち尽くしているあのひと。


ぼんやりと心の中で思い出す。


 小さくて、でも優しい声で呼びかけてくれたこと。


抱き上げてくれたあの手の温もり。


——ぼくだよ。


そう伝えたかった。


じっとぼくを見つめる瞳が揺れる。


ああ、そっか。


ちゃんと分かってくれてるんだね。


 固くて鋭い矢が体を貫く。

熱くて、痛いけど、それよりも、もうきっとあの手に触れることができないのが悲しかった。


ねえ、ずっと一緒にいられなくてごめんね。


大好きだよ。


「  」


最後にあのひとの名前を呼びたくて、でも、それはできなかった。

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