社畜で死んだ俺が17歳に戻って、あの時の恋に全力で挑む話

@tomomoo

第1話 おかしくなってるのは、俺のほうか?

「おい、またお前かよ」


その一言で、今日も俺の価値が決まった。



気づけば、書類の束を抱えて、エレベーターの前で立ち尽くしていた。


乗り遅れた。


何回目だ、今日。



「……で、どうすんの? これ」


「……すみません、修正します」


「ったく。お前、ほんと使えねえな」


上司の声は無表情だった。


怒ってるわけでもない。ただ、見下している。



電話が鳴った。取った。無意識に謝っていた。


「申し訳ありません、はい、すぐ確認します」


内容が頭に入ってこない。

メモを取っても、あとで読めなかった。



昼。社食。


隣のテーブルで笑い声。


「高城さん、またやらかしたらしいよ」


「え、まじ? 何年目?」


「……もうすぐ10年らしいよ」


箸が止まった。

味がしない。



「……最近、元気ないね」


それは母の声だった。


俺は電話の向こうで黙っていた。


言葉を探しても、うまく出てこない。


「……うるさいな、別に、元気だよ」


自分でも分かった。

その声が、ひどく冷たかったこと。



夜。


帰って、スーツのままベッドに倒れた。


部屋の天井を見ていた。


思考がぐるぐる回ってた。


なにか間違えたのか。

どこで失敗したんだろう。


それが思い出せたら、少しはマシだったのに。



「……ごめん」


口から、ぽつんと出た言葉。


誰に謝ってるのか、自分でも分からなかった。



翌朝。


アラームが鳴ってる。


でも起き上がれない。


目は開いているのに、世界が遠い。


吐き気。

頭痛。

指が動かない。


「……ああ、もう、限界なんだ」


自分の声が、遠くから聞こえた気がした。


ーーーーーーーーーーーー

「すみません、俺……やっぱ今日、有給使っていいですか?」


「……は?」


課長の声が乾いた。


「いや、前から言ってたんです。病院——」


「お前さ、今週どんだけ迷惑かけてるか分かってんの?」


「……」


「お前いないと現場回らねえんだよ」


「……すみません」


「そうやって、謝ってるだけで済むと思ってるだろ」


その瞬間、何かが切れた。


「……済むわけないでしょ。バカじゃないんですか」


一瞬、課長の顔が止まった。


後ろの佐藤が、コーヒーを吹き出しかけてた。


俺は、笑ってた。


なぜか、自分の顔が笑ってるのが分かった。





---


昼。ロッカールーム。


後輩たちがコソコソ話してる。


「やべーな高城。とうとうイったわ」


「まじで? あんな笑い方初めて見たんだけど」


「動画、撮っといた」


……


撮られてた。


「こいつマジで壊れる瞬間、笑うタイプだな」


「バズりそう」


声が遠くで笑ってた。


耳が、熱かった。





---


母からLINE。


【お米送っておいたよ。最近どう?】


文字を見ただけで、吐き気がした。


なんでだ。


あんなに優しい人なのに。


「……めんどくせえ」


声に出た瞬間、自分の中で何かが壊れた気がした。


返信は、既読だけつけて閉じた。


スマホの画面が、やたらとまぶしかった。





---


家。夜。


風呂にも入らず、冷えた床に寝そべってた。


ずっと昔の夢を見た。


制服のボタンがキツくて、

クラスの笑い声が響いてて、

好きだった女の子が教室の隅で笑ってた。


なにもかも、


ちゃんと始まりすらしてなかった。


俺の青春は、


最初から死んでたんじゃないか?

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