社畜で死んだ俺が17歳に戻って、あの時の恋に全力で挑む話
@tomomoo
第1話 おかしくなってるのは、俺のほうか?
「おい、またお前かよ」
その一言で、今日も俺の価値が決まった。
◆
気づけば、書類の束を抱えて、エレベーターの前で立ち尽くしていた。
乗り遅れた。
何回目だ、今日。
◆
「……で、どうすんの? これ」
「……すみません、修正します」
「ったく。お前、ほんと使えねえな」
上司の声は無表情だった。
怒ってるわけでもない。ただ、見下している。
◆
電話が鳴った。取った。無意識に謝っていた。
「申し訳ありません、はい、すぐ確認します」
内容が頭に入ってこない。
メモを取っても、あとで読めなかった。
◆
昼。社食。
隣のテーブルで笑い声。
「高城さん、またやらかしたらしいよ」
「え、まじ? 何年目?」
「……もうすぐ10年らしいよ」
箸が止まった。
味がしない。
◆
「……最近、元気ないね」
それは母の声だった。
俺は電話の向こうで黙っていた。
言葉を探しても、うまく出てこない。
「……うるさいな、別に、元気だよ」
自分でも分かった。
その声が、ひどく冷たかったこと。
◆
夜。
帰って、スーツのままベッドに倒れた。
部屋の天井を見ていた。
思考がぐるぐる回ってた。
なにか間違えたのか。
どこで失敗したんだろう。
それが思い出せたら、少しはマシだったのに。
◆
「……ごめん」
口から、ぽつんと出た言葉。
誰に謝ってるのか、自分でも分からなかった。
◆
翌朝。
アラームが鳴ってる。
でも起き上がれない。
目は開いているのに、世界が遠い。
吐き気。
頭痛。
指が動かない。
「……ああ、もう、限界なんだ」
自分の声が、遠くから聞こえた気がした。
ーーーーーーーーーーーー
「すみません、俺……やっぱ今日、有給使っていいですか?」
「……は?」
課長の声が乾いた。
「いや、前から言ってたんです。病院——」
「お前さ、今週どんだけ迷惑かけてるか分かってんの?」
「……」
「お前いないと現場回らねえんだよ」
「……すみません」
「そうやって、謝ってるだけで済むと思ってるだろ」
その瞬間、何かが切れた。
「……済むわけないでしょ。バカじゃないんですか」
一瞬、課長の顔が止まった。
後ろの佐藤が、コーヒーを吹き出しかけてた。
俺は、笑ってた。
なぜか、自分の顔が笑ってるのが分かった。
---
昼。ロッカールーム。
後輩たちがコソコソ話してる。
「やべーな高城。とうとうイったわ」
「まじで? あんな笑い方初めて見たんだけど」
「動画、撮っといた」
……
撮られてた。
「こいつマジで壊れる瞬間、笑うタイプだな」
「バズりそう」
声が遠くで笑ってた。
耳が、熱かった。
---
母からLINE。
【お米送っておいたよ。最近どう?】
文字を見ただけで、吐き気がした。
なんでだ。
あんなに優しい人なのに。
「……めんどくせえ」
声に出た瞬間、自分の中で何かが壊れた気がした。
返信は、既読だけつけて閉じた。
スマホの画面が、やたらとまぶしかった。
---
家。夜。
風呂にも入らず、冷えた床に寝そべってた。
ずっと昔の夢を見た。
制服のボタンがキツくて、
クラスの笑い声が響いてて、
好きだった女の子が教室の隅で笑ってた。
なにもかも、
ちゃんと始まりすらしてなかった。
俺の青春は、
最初から死んでたんじゃないか?
社畜で死んだ俺が17歳に戻って、あの時の恋に全力で挑む話 @tomomoo
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