第14話 恥
「僕、まだ仕事あるから、じゃあね。」
「あぁ。」
雑用はひらひら
「…………。」
あいつはどういう心持ちで私といるのか、どうも理解が出来ない。まぁ、惡くはないし、
角を曲がる。人通りの少ない廊下。格子窓からの陽が、これまた趣があって好い。
「……あらぁ?」
すると女の雑用が向こうから来た。なんだこいつ。
「仲介とやらじゃないか。うふっ、」
「……?なんだ雑用。どっか行け。」
「失礼だね。私は雑用じゃなくて接客だよ。」
「……っ?!触るな!」
うなじを触られた。
「ふへっ、良いじゃないか。チィっとぐらい。あんた。噂ではイケメンだとか。」
面を
「……う、」
みられた、どうするどうすべきにげる?あしがいまおれはあいてにどううつってる
「ふぅーん。噂どうりだぁ。」
あごをさわららた、くびすじも
「ふふっ。」
こんどはおびに
誰か。誰か。
――――――――
「〜♩おや、」
誰かが廊下で寝ているではないか。誰だ?そんな奴はちと叱らんくてわならんのう。
「……。」
長は立ち止まる。深淵を覗くように深く沈んだ。
「…………、」
着崩れた着物、解けた帯、赫い耳、荒い呼吸。
――――――――
「あれ。長。仲介どうしたの?横抱きなんかしてもらって。」
「あー、仲介はな、ちと疲れとるんじゃ。」
仲介は長の胸にうずくまって、表情は見えなかった。それに長の羽織りまで被せてもらってる。
「そうなの。」
「あぁ。そうじゃ。仲介はここ二、三日休まなきゃいけねぇし、一人にさせてあげてな。」
「分かった。では失礼します。」
「あぁ。……。」
仲介の部屋へと急がなければ。
「ひっ……!誰だよ。長をあんな顔させたやつ……。」
「命知らずだな……。怖ぇ……。」
――――――
「…………。」
仲介、何故そんなに生きるのを嫌う。何故、何故。
「…………。」
斜陽が長のまつ毛の隙間を通ってゆく。
「……うぅん、あれ。」
「おはよう。」
「……!!見るな!」
仲介の襟がずれて、
「くはは。そう暴れるでない。」
「みないで……」
薄ら赫く涙が出た。
じゃあ見られてた?それに
「目は……」
「……。」
長はニマニマとあぐらをかきながら笑っている。
「大丈夫かえ?」
「どこまで見た。」
おぉ、そんな怖い顔するなよ。
「くはは。」
笑って誤魔化すな。こっちは必死だって言うのに。
「「…………。」」
二人無言になった。仲介は下を向き、長は仲介を眺めている。
「長、」
「ん、なぁに。」
また笑われた。嫌味ではない優しい笑み。そっと息を撫でるような、淡く消えそうな。
「わたし、……ぅ、」
限界だ。
「うぅ……、おさ、う、うわぁああん!」
長の肩に仲介は泣きじゃくった。
「仲介。大丈夫じゃよ。大丈夫
そっと背中を撫でる。仲介の体温が布越しに伝わった。
「っ、……ふぐっ、うぅ……!」
肩が
「大丈夫……。」
「己れ、おれは、」
仲介の前髪が半円を描く。
「情け無い、臆病者で……」
「そんなことない。大丈夫。」
格子窓からの細い光が二人をつつむ。
「大丈夫。人生はどうにかなるから。だから大丈夫なんだよ。」
優しい。
「……うぅ。」
――――――――――
「……、」
仲介の目は、赫く腫れ上がっている。目を逸らしてこちらを見ない。
「……。」
長は大丈夫?とも問いかけず、こちらを溢れそうな目で見ていた。
「仲介、」
名前を呼ばれた。この名はあまり氣入ってはいない。
「……、」
「三日間。お前には休みをやろう。」
ねっ。と口を横に曲げた。
「そんな……、お気遣い無く。明日からまた仕事します。」
「ふぅん。では、」
骨の浮いたごつごつの手を顎に乗せた。
「お前の眼を皆の前で曝くぞ。」
「……ぇ、」
「と言うわけにもいかんのじゃ。お願いだ。どうか、どうか自分を追い詰めないでくれ。」
それは命令ではなかった。長の単なる"願い"であった。
「生き物っつーのは、胃に詰め込みすぎると吐くからな。けど、食べ
長は一度、壊れた事があるから、そのような事を言えるのだろう。
「分かりました……、」
情け無い。
「けど、一日。一日だけでいいです。」
「なぜ。」
「そ、れは……」
「体が怠けるので。怠惰になってしまうと、提灯のように突っ立ってしまう。」
「くはは。分かった。しかし大丈夫じゃない時は、わしに言っとくれよ。」
そんな眼で見ないで。貴方は優しすぎる。その優しさに甘えてしまう。甘えてしまうともう抜け出せない。こころが傷つきやすくなってしまう。
「……はい。」
俯く。
「「…………。」」
また静寂が響く。ダンダンと奥から生活音が聞こえる。
「して、お前に聞きたいことがある。」
「……?」
小さな息を吸い、怪しい口で言葉を吐いた。
「仲介、」
「誰にやられた。」
――――――――――
「なぁ、知ってるか。ここの旅館にいた煩いあいつ。」
「あぁー、あいつね。それがどうかしたの?」
「あいつ、行方不明らしいぜ。」
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