困惑の連続

「-っ!?……あれ、私、どうなって?

 ……なんとも、ない。……へ?」

 悪夢が終わるのと同時に、私は床で目を覚ました。…とりあえず身体を擦ってみるが、『あの事』が夢であったようになんともなかった。

 しかし、自分の身体を触る内に別の異変が起きている事に気付いてしまう。

 -どういうワケか、自分の身体が文字通り別人のように『激変』しているのだ。…まず、足が明らかに短くなっている。つまり、身体が縮んでいるという事だ。

 次に、同性がうらやむ胸の膨らみは男性的な胸板になっていた。だから、恐る恐る服越しに下半身に触れてみる。


「……っ!……ふう」

 その瞬間、思わず叫んでしまいそうになるが咄嗟に口を押さえて堪える。…そして、深呼吸してなんとか心を落ち着ける。…とりあえずこの事は一旦スルーして、周囲を確認した。

「……は?」

 だが、目の前に広がる光景に困惑の声を出してしまう。…何故なら、私は見知らぬ部屋に居たのだから。

 その部屋はとても広く、高価な調度品が月明かりに照らされていた。しかも、私の寝具や寝巻きも高級感溢れるモノになっていた。…まるでお貴族様になったようだ。


「-っ!…どうぞっ」

 困惑していると、不意に部屋のドアがノックされる。…なので、とりあえず応じるとそっとドアが開いた。

 そして、ランタンを持ったメイドが顔を覗かせて来た。見た所、今の私より少しお姉さんだろうか?

「…『若様』、どうかなさいましたか?」

「…っ。…いや、大丈夫だよ。

 少し悪い夢を見ていたようだ」

 彼女が口にした言葉を聞いて、俺は自分の置かれた状況を理解した。…だから、私は直ぐに苦笑いを浮かべてそんな事を言う。

 今、彼女に違和感を抱かれるのはマズい。もし『違う』と判断されたら、確実に『詰む』 可能性があるからだ。


「…まあ。…無理もありませんね。

 -何せ、明日は若様の『鑑定』の日なのですから」

「……全く、情けない事だ」

 その言葉を聞いて、私はようやく自分の置かれている状況を理解した。…けれど、なんとか冷静に苦笑いを浮かべた。

 すると、メイドはエプロンのポケットからアイマスクを取り出し、一礼してからこちらに近付いて来た。そして、彼女は優しい笑顔を浮かべる。

「若様なら、大丈夫ですよ。

 …ですが、どうしても寝付けないようでしたら『こちら』をお使いになって下さい」

「…ありがとう」

「…それでは、お休みなさいませ」

 それを受け取ると、メイドは恭しく礼をしてそっとドアを閉めた。…まさか、自分が当事者になるとは夢にも思ってなかった。

 その直後、私はベッドに腰を降ろし頭を抱えてしまう。けれど、仕方なく私はベッドに上がりアイマスクを着けた。…とりあえず、先の事は明日を乗り越えてからだ。

 そう決めた私は横になり、目を閉じる。すると文字通り『魔法』のように、夢の世界へと旅立った-。


 -そして、翌日。…どうやら、今の状況は夢ではなく間違いなく現実だという事を知った。

 後、今の私は『ブルーノ・トゥオース』というとある王国の伯爵家次男らしい。

 家族構成は、父・母・兄・姉で皆なんらかの戦闘スキルを所持しているそうだ。…その話を昨日のメイド(俺のお付き)から聞いた私は、ますます不安になった。

 もし、鑑定の結果が『ハズレ』だった場合多分ハードな人生を送る事になるだろう。…つまりあの悪夢が、現実になるかもしれない。


「-…到着したようですね」

 そうこうしている内に、馬車は目的地に到着したようだ。…そして、キャビンのドアが開いたので私は不安になりがら降車した。

「……っ」

 すると、目の前に立派な建造物が現れる。…此処が、本日俺がスキル鑑定を受ける貴族用の鑑定所だ。

「それでは、参りましょう」

「…ああ」

 冷や汗を流していると、メイドが一礼してから私の前に立ちゆっくりと歩き出す。…だから俺は、いよいよ覚悟を決めてその後に続いた。


「-ようこそお越しくださいました。

 トゥオース伯爵家のブルーノ様ですね?」

「…はい」

 建物の中に入ると、正装したベテランの職員が敬意を持って出迎えてくれた。…正直、余計に不安が募る。

「それでは、ご案内致します」

「…宜しくお願いします」

 そして、メイドと共に職員の後に続きこれまた立派な建物の中を進んでいく。…やがて、高そうなドアの前で職員は止まりそれを開けた。

「…どうぞ」

「…若様。行ってらっしゃいませ」

「…ああ」

 すると、そこでメイドは私を送り出す。…何故ならメイドである彼女は、鑑定の部屋に入れないのだ。どうやら、いろいろとルールがあるらしい。

「…お待ちしておりました、ブルーノ様。

 本日、ブルーノ様の鑑定を務めさせていただきす『エドワード・アプスレル』と申します」

「……え?」

 そんな事を思い出しながら部屋に入ると、いかにもなローブを纏った紳士的なご老体が出迎えてくれた。…しかし、その人の口から出た名前は『とても聞き覚え』のある物だった。


 -エドワード・アプスレル。

 その人物の事を一言で纏めると、『とにかく運の悪い被害者』である。…何故なら、目の前に居るこの人は唯一『主人公』の無実を知っていたのだから。

 だが、それを進言する前にこの人は誘拐同然の左遷処分を受けてしまうのだ。…更に、この人が左遷先に到着して直ぐに最初の『異変』が起きてしまい、そのままフェードアウトしてしまう。


「「-……?」」

「(…ウソ、でしょ?)…ああ、失礼しました。

 まさか、『殿下達』の鑑定をされた方が居るとは思わなかったものですから」

 私は、なんとか冷静を装いながらもっともらしい『理由』を口にする。…どうやら、既に私は相当な『ハズレ』を引いていたようだ。

「…いやはや、伯爵家のご子息様にまで名前を知られているとは光栄ですな」

「…こちらこそ、お会い出来て光栄です」

「ははは。…さあ、お掛けになって下さい」

「…はい」

「それでは、私も外でお待ちしております」

 こちらの内心を知らない鑑定士は、高そうな椅子に座るように促して来る。そして、それに合わせて職員は静かに部屋を出た。

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