第一章『学園での日々』

邂逅-赤の姫と緑の姫-

 -それから時間は流れ、世間は凍えるような冬から暖かい春に移り変わっていた。

 そんななか、俺は住み慣れた我が家を離れ王国の首都に居た。

「…本当に、凄く荘厳だよな」

「…はい。いつ来ても、この景色に圧倒されます」

 すると、同じように馬車の窓から首都の景色を眺めていたお付きのメイドは、俺の感想に同意した。…やはり、『俺』も何度か此処に来ているみたいから正直な感想を言っても大丈夫なようだ。

「…っ。そして、あれがかの王立騎士学園ですか」

「……」

 そして、いつしか迎えの馬車は騎士学園に到着しようとしていた。…当然、俺は少し緊張してしまう。


 -何せ、これから俺は『試練』に挑まなければならないのだから。…そう。あの学園に入学す為には、『入試』をクリアしないといけないのだ。

 実は原作にもテストパートが存在しているのだが、筆記の方は幾つかの基礎知識を答えるだけで良いし、実技も『ほぼ』問題無くクリア出来る。

 しかし、俺の場合は話が別だ。…当然、筆記にしても実技にしても基準点を越えないといけないのだ。


「…大丈夫ですよ。筆記の予行テストも殆ど完璧でしたし、実技の方もボルグス卿とロエイド女史よりお墨付きを貰ったではありませんか」

「…そうなんだが、やはり家以外の場所でのテストというものは緊張してしまうモノだ。

 君だって、他の家で行われるパーティーの手伝いをする時は、凄く緊張するだろう?」

「…確かに、そうですね。

 若様の心中を察する事が出来ず、申し訳ありませんでした」

「いや、分かってくれれば良いよ。

 -…っ」

 そんな話をしている内に、馬車は学園の大きな門の前で停止した。…そして、ドアが開いたので俺はメイドを連れて馬車を降りる。


『-入学テスト参加者は、講堂にお集まり下さいっ!』

 すると、直ぐに案内の声が聞こえる。…流石この国唯一にして最高学府の職員だ。なにせあの職員は、風属性の日常魔法である『拡声』で案内しているのだから。

「…あの方は、どこの家出身なのだろうか?」

「確か、理事の1人に高名な風使いの方がいらした筈です。恐らくは、ご親族の方でしょう」

「…なるほど」

 小声で話をしながら、俺達は他の受験者とメイドが作る人波に乗って講堂を目指す。そして歩く事数分、ようやく講堂に到着した。

「…若様。ご健闘を祈っております」

「ああ。行ってくる」

 そこでメイドと分かれ、俺は見るからにキャパの多そうな講堂に足を踏み入れた。すると中には、大量の仕切り板付きの机と椅子が用意されていた。


『-参加者の方々は、受付で書類を提出して下さいっ!』

『提出後は、受験番号と同じ座席に着席して下さいっ!』

 そして、中でも丁寧な案内があったのでとてもスムーズに席に座る事が出来た。…とりあえず注意事項の説明が始まるまで、復習でもしておくか。

 俺はカバンから革の手帳を取り出し、自作の問題集をやろうとした。…けれど、少し気品に欠けた講堂内が急に静かになった。

「-あの、お隣失礼致します」

「…あ、はい。………え?」

 すると、少しして貴族の子女らしき人物が声を掛けて来たので、ふとそちらを見る。…その瞬間、俺は衝撃のあまり固まった。


 -なにせ目の前に居たのは、艶のあるフォレストグリーンのショートの髪と鮮やかなピンクの瞳をもつ、この世界の『主人公』だったのだから。

 …そう。彼女こそが、この国の第3王女にして『聖獣の巫女』であるセレナ・W・シルクーザその人だ。

 そして彼女は、姉である第2王女と歳が1つ違いなので今年入試を受けるのだ。それにしてもまさか、彼女の受験番号が俺の1つ後だとは思わなかったな。


「…あの、どうなされました?」

「…っ!失礼致しました。…まさか第3王女殿下が隣の席になるとは、想像すらしていなかったたものですから」

「…ふふ。

 -私も、まさかここで貴方に会えるとは思ってもみませんでした」

 正直な感想を告げると、小動物のような見た目の王女はクスッと笑う。…そして、何故か王女はこちらに同意してきた。

「…はい?」

「あら、聞いていませんか?

 実は、私の姉と貴方のお姉様はとても仲が宜しいのです。…ですから、時折姉が主催するお茶会で貴方のお姉様とも顔を合わせているのですよ。

 その時に良く、あの方は貴方のお話を聞かせて下さいましたの」

「……へ?……っ!」

 衝撃の事実に、思わずポカンとした。…しかし直後、とある記憶が蘇る。それは、第2王女の学園時代のエピソードだ。

 確か学園パートでは、第2王女が心を許した者達だけで構成された『親衛隊』が居た。そしてその中に、雷の扱いに長けた金髪のモブ女子が露払いの役割をしていたのだ。…全然、気付かなかった。


「…ああ、そういえば姉からの手紙にそんな事が書いてありましたね。

 …ですが、第3王女殿下ともお知り合いだとは全く書いてなかったですね」

「…きっと、貴方へのサプライズにしたかったのでしょう」

「…なるほど。なんとも、『我が姉がやりそうな事』ですね。…っ」

 少し苦笑いをしながらそう返した後、ふと気付いた事がある。…どうして俺は、写真でしか知らない姉の性格を答えられたのか?

「……?」

「-殿下、お隣失礼致します」

 当然、王女はまた首を傾げるがそのとき凛とした声が聞こえた。…第3王女に恐縮しない所をみるに、多分『慣れてる』家の者だろう。

「あら、お久しぶりですね」

「はい。ご機嫌麗しゅうございます、セレナ殿下」

 すると、予想通り彼女と王女は大分親しい間柄のようだった。なので俺は、会話に割り込まず復習を再開した-。


『-そこまでです。ペンを置いて下さい』

『…ああっ』

『…ダメだ』

 数時間後。筆記試験はつつがなく進行し、そしてたった全科目が終了した。…直後、何処からか苦悩や絶望の声が聞こえた。

 正直俺も、兄や姉が用意してくれた『テスト対策』が無かったら危なかった。…本当、頼りになる人達だ。

「…ふう。なんとか基準点は越えられたと思います」

「…私もです。…そちらの『ブルーノ』殿は如何でしょうか?」

「…っ!…そうですね。自分も、大丈夫だと思います」

 ふと、王女の友人が聞いてきたのでとりあえず答える。…まあ、第3王女の『友人』ならば当然俺の事も知っているか。

 ただ、警戒している様子ではなく単純に興味がある感じだった。多分、テスト前に復習をしていたからだろう。


『-それでは、今から風の魔法で答案用紙を回収するので手を机の下に入れて下さい』

「あっ」

「…どうなされました?」

 そんなアナウンスが流れた時、ふと王女は壇上手前に置かれた大きな柱時計の方を見た。…そこには、燃えるような赤い髪をツインテールにした女子生徒が居た。

『…ウソッ!?なんであのお方がこの場に?』

『…あ、あれが、-聖霊を統べる者-と呼ばれた第2王女殿下っ!?』

 当然、他の受験者達は彼女を見てざわざわとする。…直後、俺の答案用紙が風の膜に包まれふわふわと彼女の元へ飛んで行った。

「…凄い」

「…流石お姉様。なんて繊細な制御を」

「…一体何故、ヴァージニア殿下が試験の手伝いを?」

 すると、王女の友人は困惑しながら疑問を口にした。…その理由を知るのは、恐らく俺と第3王女だけだろう。


「…お姉様は、とても優秀ですからね。それに模範生でもあるので、講師の方々の手伝いを自ら進んで行うのです」

「…素晴らしい」

 説明を聞いた友人は、尊敬の眼差しで第2王女を見た。…勿論、妹が語ったのはフェイクである。

 まあ、簡単に言うと『品定め』の為だ。…けれど彼女のお眼鏡にかなう者はおらず、それが余計に帝国の皇太子に熱中するきっかけとなるのだ。

「……」

「…っ。…ブルーノ様も、姉に興味がおありですか?」

 彼女に視線を送っていると、妹は良い感じに勘違いしてくれた。なので、俺は小さく頷く。

「…ええ。…ああ、それと自分に敬称は不要ですよ」

「では、ブルーノさんとお呼びしましょう。

 私のことも、どうかセレナとお呼び下さい」

「…分かりました」

 それから、流れるように王女の友人とも仲良くなると丁度答案の回収は終り、俺達受験生は実技の会場に移動を始めた-。

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