<1節を読んでのレビューです>
雪舞う北大陸の都市国家サルモヴィッセルを舞台に、孤高のガンマン、バン・キルトが謎めいた依頼を受けるところから始まる。緻密な描写が随所にあり、街の寒さや人の流れ、路地裏の雰囲気までが自然に頭の中に立ち上がる。読み進めるほどに、日常の空気と非日常の任務が同時に存在する緊張感が漂い、世界観への没入感を強めていく。
個人的に印象的だったのは、バンがゲートボックスを操作する場面だ。
「男は懐から取り出した先程の黒いカードキーに記載された番号を確認し、それを端末に挿入する。続けて、記憶していた数列をテンキーで打ち込むと、しばしの沈黙の後、チン、と軽やかなベルの音が背後で響いた。」
この描写は、単なる操作手順を描くのではなく、男の冷静さや場の静寂、微かな緊張を同時に表現しており、読者として手に汗握る感覚を味わえる。操作音や沈黙の描写が、異世界の異質さと緊迫感を巧みに引き出している点が素晴らしい。
さらに、依頼の説明が進むにつれて提示される二億CCという巨額の報酬と「裏の事情」の含みは、主人公の能力や過去、世界の構造を暗示しつつ、物語の先を期待させる。緻密な状況説明と人物の思考描写が巧みに絡み合い、単なる冒険譚に留まらない奥行きを感じさせる点に心惹かれる。