スキル薩摩示現流って何ですか?~二の太刀いらずの轟撃で全てを叩き切る~

casmi

第1話 薩摩示現流って何ですか?

「ヨシフはぐれない様にしろよ」


 父に手を引かれながら雑多な街の中を歩いていく。


 五歳を迎えて初めて訪れた街は何もかもが驚きの連続だった。


 住んでいる村とは人も建物も何もかも違う様子に目を白黒させながら、何とかはぐれない様に父の手を強く握り歩いていく。


 建物も人の様子もどこか村とは違いこれだけ多いのに誰もぶつからずに進んでいくことに驚き、踏み進める小石すらない石畳の道にも感動を覚える。


「さて着いたぞ」


 そういって父が指し示したのは街の建物と比べても更に大きな石造りの建物だった。


「でかいだろ、この街で二番目に大きな建物だぞ」


 これで二番目なのかという驚きを口に出すことも出来ずただポカンと口を開くことしか出来なかった。


「さあ中に入ろう、神父様もお待ちだ」


 そう言って父に手を引かれながら父の倍の高さはあろう扉をくぐり中に入る。

 教会の中は街の中とはまた別種の騒がしさがあった。


 俺と同じぐらいの子どもが走り周りキャイキャイと騒いでいる、無論騒いでいる子どもだけじゃない。

 俺と同じ様に親にひっつく子ども、集まって何かをしている子どもも多く、そんな子ども達は俺が入ってきたことに気が付いて一瞬視線を向けるもすぐに自分の世界に戻っていった。


 そうして教会内を進んでいると柔和な表情を浮かべた壮年の男性の前で会釈する。


「どうも神父様、本日はよろしくお願い致します」


 父はそう言って鞄からこぶし大の袋を取り出して神父様に渡す、そして神父様はというと敬々しくそれを受け取り、袋の中を確認することなく懐にしまい込む。


「いやはやありがとうございます、神のご加護があらんことを……それで、君の名前を教えてくれるかい?」


 神父様は視線を合わせる様にかがみ込むと柔和な笑みを浮かべながらそう告げた。


「ヨ、ヨシフです、今日はよろしくお願いします」


 街に入ってから初めて喋ったものだから少しどもってしまったが何とかそれだけ告げると父の笑い声が聞こえてきた。


「どうも初めての街で緊張しているみたいで」


 そう言って乱暴に頭を撫でる父に少しむくれていると神父様は何も言わず笑みを浮かべたまま頷く。


「まあまあそれは驚いたでしょう、この街も結構大きな街ですからね、人の多さも建物も村とは規模が違いますからね」


 神父様はそう言って父に続いて頭を撫でる、父とは違い優しく撫でるその感触がどこかくすぐったくて思わず笑ってしまった。


「結構結構、ではこちらに」


 神父様はそう言って歩きだし父と俺もそれに続く、広いと言っても然程歩くことはなく講壇にたどり着くと神父様に促され木の台の上に立つ。

 そして神父様は二、三言ブツブツと小さく何かを唱えると大きく口を開く。


「神よ敬虔たる新たな使徒に祝福を与え給え」


 短くそう告げると徐々に視界が白く染まっていき、不安から父の姿を探そうとした時には視界は真っ白に染まった。


『見つけた』


 誰かの声が聞こえた、そちらに振り向くとどこから現れたのかボロボロの服を着た剣士が経っていた。

 何故彼が剣士だとわかったのかは分からなかった、しかし次に目に飛び込んだのは腰に差した剣を愛おしそうに撫でる姿でその思いは確信に変わった。


『お前だ、お前に未来を託す』


 何を、と言おうとしたものの口を開くことは出来なかった。


『俺はお前を見ている、お前が大成するか、腐ったまま終わるか、それはお前の自由だ』


 男は剣を抜いてその切っ先をこちらに向ける。


『だが俺はお前に託す、お前なら……そう、お前ならきっと』


 そう言って男の姿はぼやけていく、待ってくれと強く念じても止まらず気がつけば視界は教会に戻っていた。

 何が起きたか分からず周囲を見渡すも先程の光景はまるで白昼夢の様に煙に消えて、再び喧騒が響く教会の姿に戻っており目を白黒させていると神父様の言葉に我に帰る。


「スキル、薩摩示現流……レアスキルの様ですね」


「神父様、そのサツマ?ジゲンリュウ……というのはどういったスキル何ですか?」


 心配そうに声をかける父に神父様は首を横に振る。


「私も詳しくは……聞いたこともないのでレアスキルということはわかりますがどういったものかまでは……資料を取り寄せてみないことにはなんとも」


「そ、そんな……」


 そう言って父は項垂れる、無理もない、先程神父様に渡したお金だって父は大好きなお酒をしばらく我慢してようやく貯めたお金だって言うことは俺もよく知っている。

 ここで更にお金が必要になるのは我が家の家計的にちょっと苦しいだろう。


「大丈夫だよ父ちゃん、俺、薩摩示現流?っていうスキルが何なのかよくわからないけど大丈夫!がんばってみるよ!」

「ヨシフ……」


 俺の言葉に父は難しそうな表情を浮かべそっと撫でてくれた、神父様はそんな様子を頷きながら笑顔で見届ける。


「素晴らしい、そうですヨシフくん、スキルは所詮授かりもの、活かすも殺すも当人次第なのですから君の努力次第で如何様にもなりますとも……しかし、何の指標もないと言うのも少々酷でしょうから着いてきてください」


 俺と父は神父様の後ろに続く。

 教会を出て併設された庭の様な広場に着くと神父様は大きな岩の前で立ち止まった。


「さてヨシフくん、この木剣を」


 そう言って差し出された木剣を手に取る。

 握った瞬間不思議と体に馴染む感覚を覚え、目を白黒させながら神父様に視線を向ける。


「さて握った所で何か感じましたか?」


「はい!何か体の一部みたいに感じます、神父様これは?」


「ふむ、やはり剣士スキルでしたか、薩摩示現流という言葉から何かの流派だと言うことはわかっていましたがこれは僥倖ですね」


 俺は木剣を軽く振るうと不思議と徐々に動きが修正されていく、頭ではなく本能でこうした方が良いのだと感じ取ることができた。


「ふむ、重心も安定してきましたね、振りも鋭い……さてヨシフくん、この岩を試しに斬ってもらえますか?」

「えぇっ!?この岩をですか?神父様いくらスキルを得たからってヨシフはまだ五歳ですよ!?」


「大丈夫ですよお父さん、スキルによっては体がまだ出来上がっていなくても強力な一撃を放つことができるものもありますから、さてヨシフくんできそうですか?」


「は、はい!」


 返事をして岩に向き直る。

 岩は大きく父の背丈程の高さもあって少し前なら威圧感すら覚えそうであったが今は不思議と平気だった。

 もう数回木剣を振るう、違う、こうじゃない、もっと鋭く、力強く。


 何かに指し示される様に体の動きは安定していき剣を振るう速度も徐々に上がっていく。


 しかし何かが足りなかった、もう一つ、あと一声。


 声?そうか声か!


 直感的にそう思った俺は息を大きく吸い声を出す。


「キエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエッ!!!」

「「!?」」


 自分が発したとは思えない程の大きさの叫びはどこか山猿を思わせるもので、それに驚く間も無く振り下ろした木剣は見事岩を両断-ではなく爆散させた。


「ヨ、ヨシフ!大丈夫か!?」


 心配そうに駆け寄る父に言葉をかけようと思ったが感じたことのない疲労感のせいでそれは叶わなかった。

 神父様は驚いていたもののもう落ち着いておりゆっくりこちらへ歩み寄る。


「驚きましたね、まさかこれほどとは……今の叫び声はスキルに誘導されましたね?」


「は、はい、何故か、そうした方が、いい気がして……」


 俺は肩で息をしながら何とか答える。

 額から流れる汗を拭うこともできずただただ息を整える。


「いやはや岩を撤去する手間が省けましたよ、ありがとうございますヨシフくん。しかし強力なスキルですね、特異さから騎士にという訳には行きませんが冒険者であれば大成するかもしれませんね」


「冒険者ですか?ヨシフにはもっと安定した職業に就いてもらいたかったが……」


「まあまあお父さん、職業に貴賤なし。冒険者も立派な仕事の一つですよ、真面目に取り組めばそれなりに実入りも大きいですしね」


 俺はようやく息が整い神父様の言葉に耳を傾ける。

 冒険者、話だけには聞いたことがあったが自分がそれに?


 未来が開けた様な感覚を覚え、全身に活力が漲ってくる気さえした。


「冒険者……」


 そう呟けば剣を振るう自分の姿が思い浮かび夢想する。

 しかし神様、薩摩示現流って何ですか?


 そんな疑問を溶かす様に見上げた空には雲一つなくまるで俺の未来を祝福している。そんな気がした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る