1.6 感想するには何が必要か

 では感想を書く・思い起こすには何が必要か。

 前節の例を思い出してみよう。


 例2:

 私の人生は『人間失格』の主人公の人生と共通点がある。だから私はこの作品に感動しました。


 例から分かるように、感動には読者の人生と、

 作品の内容に共通点が必要だろう。

 つまり読者には、ある程度の経験をもっていること。

 そして、自身の体験と作品に共通点を見つけ出す能力。

 がないと感動することができないだろう。


 もし桃太郎に感動する場合も、

 読者は必ずしも鬼退治をする必要はない。

 ただ誰かのために行動したことがあるなら、

 ぼくらは感動ができるだろう。

 するかどうかは別にしてね。


 では、批評に読者と作品の間に共通点は必要だろうか。

 前述の例を読み直してみましょう。


 例1:

 太宰治の『人間失格』は世間で高い評価をされるべきである。それは当時の人間のほとんどが陥った絶望を書き表している。


 では『人間失格』の絶望を評価するのに、

 絶望を体験する必要はあるのか。

 まったく必要がないでしょう。

 異世界転生の作品を評価するのに、

 転生が必要ならば、誰もが評価できなくなりますね。


 だから批評や評価をするのに、

 読者と作品の間に共通点は必要ないでしょう。


 ここでも批評と感想の違いが現れました。

 それと前節の特徴と合わせると、以下のようになる。


 ①感想は否定できないが、批評は否定ができる。

 ②感想と批評の構造が違う。

 ③感想は共通の経験が必要だが、批評には必要ない。


 こうして批評と感想の違いがより明白になりました。

 もうこの2つを混同することはありませんね。


 そしたら次は余談として、

 ジョセフ・マーゴリスという哲学者から、

 実用性の観点から違いを見てみましょう。



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中高校生のための批評入門 聖心さくら @5503

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