第5話 魔女の因子

コンコンッ

突然ドアのノックが鳴った。

「はい」

「ジードです、今よろしいでしょうか?」

「はい、大丈夫です」

私が眠りに入ったのは昼間だったので、今はもう夜になっている。恐らく20時くらいだ。

7時間くらいは寝たのかな?

「失礼します」

ジードが入ってきて、一礼をした。

私はベッドに腰かけたままお辞儀をした。

「もうお身体の方は、いいのでしょうか?」

「はい、心の整理はまだつきませんが・・・」

「そうですか、お伺いしたのは、お話ししておきたい事がございまして」

ジード団長がそう言うと指を鳴らして見せた。

パチン!

「えっとそれは?」

「音の遮断魔法です。

あまり聞かれたくない話をする時は、重宝しますよ」

とこちらにウィンクしてきた。

そういえば、魔法があるのよねこの世界

「ええ、魔法は多岐にわたり存在し生活もそのお陰で豊かになっております」

またこの人・・・

「失礼、癖のようなものでして、申し訳ございませんねえ」

そういえば、さっきは使わなかったよね?

「ええ、重要機密と言えど、特に聞かれて困るようなことはありませんしね。

私の話に耳を傾けているのは、副団長のランディ君くらいでしょうか?他の方は単なる兵士です。

ああ、誤解しないで欲しいのですが、

私にも《人情》というものは持ち合わせておりますので、兵士と言えど人間ですからねえ」

とにやにやしながらメガネをくいっと正した。

人情って・・・日本語だよね?

「ええ、ご推察通り私は日本人ですよ」

「え!?、転生者・・・?」

「ええ、私の本名は加藤 一機と申します。」

「あなたも転生者の方ですね?」

ドキ!

「な、なんで知ってるの?」

私は人にも言っていないことを当てられて、ドキドキしながらジードを凝視した。

「そんなに睨まないでください、私は只知りたいだけなんですよ。この世界の全てを」

なんて傲慢な方なんだ。

「ええ、よく言われます。ですが疑問には思いませんか?何故この世界は、500年毎に滅びを迎えているのか?何故魔女と呼ばれる転生者が、500年毎に召喚され、神器と呼ばれるものを操作しなければならないのか?どこから魔物の軍勢が来ているのか?誰が差し向けているのか?」

「気になりますけど私の知らないことばかりで」

「それは知ればいいだけのことです。

知れば知るほどこの世界は歪んでいる。

だから知りたいのです。この世界は何故存在しているのかを」

私は呆気にとられ、ぽかーんとしていた。

「失礼、少々熱くなりました。

いけませんねえ、こういう話になると熱くなりすぎて周りが見えなくなるんですよ。」

そう言いながら、お手上げの仕草をした。

ん?転生者が操作するなら、ジード団長も乗れるのでは??

「ジード団長は、神器に乗らないんですか?」

「ええ、転生者ですが乗りません」

ん??

「ああ、乗れないと言った方が正しいですね」

「どういう事ですか?」

「私も聞いてみたんですよ、火の化身と呼ばれるヴェスティアに」




それは、一年前の事。

丁度第二王子が、逃げ去った後の事。

「あなたは神器に乗れる方が、魔女が分かるのでしょうか?」

(ワカルワヨ?)

「では、私はその神器に乗れるのでしょうか?」

(無理ネ~、アナタモ魔女ニ連ナル者ダケド、ソノ資格ガ無イワ)

「資格ですか、それは何か制約があるのでしょうか?」

(転生者デアリ、王家ニ産マレタ者ガソノ器ヲ有シテイルノ、アナタニハ因子ガ欠ケテイル)

「なるほど、確かに私は王家の産まれでもない。

となると魔女は全て転生者という事でしょうか?」

(エエ、ソウネ)

「これは興味深い・・・。

クックック、面白くなってきましたねえ。」

つまり因子の問題だという事か?魔女の因子を持つ者が神器に乗れる。王家の産まれにはそれが関係していると、ただそれは転生者に限る

何故転生者である必要があるのか?

この世界と地球とに、何らかの違いや繋がりがあるのでしょうか?

魂に因子が刻まれている・・・?

ぶつぶつ・・・。

「団長、この後の事もあるので戻りませんか?」

「ええ、戻りましょうかねえ」




「と、いうことがありましてね

実に残念ですが、私には乗ることができないようです」

「あまり残念そうに見えないんだけど?」

「ええ、乗ることには興味がありましたが、できるなら外側から研究させて頂く方が、私にとっては面白いと思いますので、死ぬのもごめんですしね。

ああ、誤解しないでくださいね。

私は只の研究者であって、そこに生の意味を見出だしているだけの変人ですので」

自分で変人いうか?

「いけませんか?」

「いえ、ジード団長らしくていいんじゃないですか?」

「それは褒め言葉として受け取りましょう。

話は戻しますが、あなたには魔女の因子がある。

だから乗れるということですね」

「他の転生者は、見つけられたんですか?」

「それがですね、この国から出るのが難しく他国との貿易やらなんやらをサボっていたつけがありましてね、この国の王にして王子殿下だけあって、何もしてきておらず、急に御免下さいと、行く訳にもいかないのです。なので他国との結び付きを、この一年してきたわけですよ。

この国にも一度ご挨拶をさせて頂いたんですが、覚えていらっしゃらないでしょうか?」

「そういえば・・・、なんか他国の方が来たってお母様がいってたような?

うちの国も似たような物で、特に他国との結び付きもなく貿易をするにも遠すぎて難しいという話しでした。」

「ええ、そうですね、国と国の距離が離れすぎていて、国交すら行われていないのが現状です。

でしたというのが今は正しいですが」

「国交をされたんですか?」

「ええ、飛空挺のおかげで距離は問題視されてませんが、飛空挺その物を異形の物と見る国の方が多くて困りましたよ。」

と、またお手上げの仕草

「風の国と呼ばれるミラルボーズと、水の国と呼ばれるアクアームに国交をする事には成功しました。

あとの国は、侵入することすら叶いませんでしたよ

私の推測ですが、魔物の軍勢の襲撃も同時進行ではないという事がわかりました。

魔物の狙いは、恐らく神器と魔女の因子でしょう。

この国にはもう因子も神器も残されておりませんので、来ることはないでしょうが、あなたの因子は狙われ続けるでしょう。これからも戦い続けることが、あなたの使命です。と言っても重い使命ですが、あなたは戦い続ける事ができますか?」

「私は・・・、怖い・・、でも誰かが苦しんでいるのを見過ごす事はできない。ロボットも大好きだから、だから戦い続けようと思います。いつか皆が安心して過ごせる平和な世界が訪れるまで・・・。」

「良いお答えです。私は人を見くびっていたようですねえ。乗らない、死にたくないと言う王子の気持ちが、普通の感情だと私は思っておりましてねえ。

本当の所、あの時あなたをここに招くことは、しないつもりでいました。でも、あなたは強い。恐らく大丈夫でしょう。というのが今の私の気持ちです。

あなたを迎えに行ったランディ君なんですが、彼も大事な者を失った経験がありましてねえ。

だからそんなあなたを救いたかったのでしょう。

迎えに行ったのは彼の意思です。

私は置き去りにしようとしていたのでねえ

それだけは言っておきますよ。」

酷い人だった。

「ええ、よく言われます」

パチン!

ジード団長が指で音をならした。

「では、お話する事はできましたので、今日はもう失礼しますね」

「はい」

ジード団長が、お辞儀をし部屋から出ていった。

何か色々知って、気持ちの整理が難しくなったなぁ

「はああぁぁっ・・・」

私は、どでかいため息をついた。

これからどうしよう?戦い続けるとは言ったものの

私はへなちょこなんだよね・・・。

神器での戦闘も、気づいたら終わってたのよね・・・、私で大丈夫かしら?

私は不安に書き立てられながら眠りについた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る