小説風営法の改正

ちびまるフォイ

小説といいはる勇気

「やったーー! カクヨムでランキング1位!

 これは書籍化まったなしだぜ!!」


新作の冒険物語を書いたらこれが大ヒット。

読者からのレビューやら通知が止まらない。


「あなたがこの小説の作者の〇〇さんですね?」


「はい、いかにも! 書籍化の話ですか!?」


「いえ、小説風営法のお話です」


「はい?」


「2025年6月28日より小説風営法が改正されました。ご存知でない?」


「すみません、テレビはもっぱらいないないばあを見てまして」


「小説内に登場する過度で過激な表現などは規制されるようになりました」


「はあ。でも俺は関係ないでしょう?」


「関係ありまくりです。あなたの小説を見てください」


ランキング1位にさんぜんと輝く自分の小説。

そのタイトルが指摘された。



『パーティから追放された俺はチートを極めて

 スローライフを満喫しようと覚醒するはずが

 悪役貴族として迎えられたので

 令嬢たちとのハーレムを作って人生逆転成り上がり』



「……長い? 長いから風営法違反とか?」


「そこじゃないです。使われている内容が問題なんです」


「内容……?」


「小説風営法の改正により、

 「伝説」「最強」「No1」「覚醒」「チート」

 そういった言葉は規制対象となりました」


「え!」


「過度な色恋に関する内容も規制対象となります。

 タイトルだけでいうなら"ハーレム"とかですかね」


「そんな!! どうしろっていうんですか!」


「その要素を抜いてもらうしか無いですね」


「パーティから追い出されてしょげ返ってるだけの

 めっちゃつまらない小説になりませんか!?」


「それは知りません。とにかく取り締まるのが我々ですから」


「せっかく1位になったのにーー!!」


小説風営法の内容を詳しく見ていくとますます規制は厳しい。



・ヒロイン(ヒーロー)との小説内濃厚接触の禁止

・色恋を匂わせる展開や要素の禁止

・主人公が明らかに優れている描写、能力の禁止

・周囲が主人公より明らかに劣る描写、能力の禁止



「どうしろっていうんだよ!!」


異世界小説に必要なあらゆるエッセンスがすべて抜かれ、

残ったのはスッカスカの味のしない内容しかならない。


もちろん小説内で伏せ字を使ったり、

直接的な行為ではないにせよ匂わせてみたり。


そういった小手先の回避策ももちろんNG。

小説内における風営法の検閲は徹底的なものだった。


「せっかく1位になれたのに……!

 せっかく書籍化も見えてきたのに……!

 小説風営法にあわせて書き換えたら絶対つまらなくなる……」


ストーリーは一番盛り上がっているところ。


貴族家系に課せられた呪い。

ヒロインの秘めたる恋心。


主人公はヒロインとの恋を成就させてキス。

そうして貴族の呪いを解呪してハッピーエンド。


そんなことを考えていたのに。

小説風営法としては間違いなくアウト。


「ああ、どうしよう。展開を変えるべきなのか。

 それだとヒロインは救われない。

 かといって小説内で風営法を無視したらどうなるか。

 うう、もう八方塞がりだ……」


追い詰められた作者は小説でいちばん風営法に際どい部分を作り終えた。

結局、エンディングを変えることはしなかった。


ヒロインは主人公とキスをし呪いから開放。

主人公は覚醒してチート能力に目覚めるというエンディング。


もちろん小説風営法の検閲官がすっとんできた。


「ちょっと! なにを考えているんですか!」


「何がですか?」


「あなたの小説に小説風営法違反の内容があります!」


「なぜそうだと? その証拠は?」


「あなたの小説を読んだ読者の反応から、そんなの明らかでしょう!?」


自分の小説についているコメント。

そこにはキスシーンが良かったとか、恋愛がうまく言ってよかったとか。

風営法を土足で踏み荒らした展開に関する賛辞が送られていた。


「この通り、読者の反応から見ても

 あなたの小説内に風営法違反の要素があるのは明らかです!!」


「なら読んでみてくださいよ!!」


検閲官は小説を改めて読んでみた。

ストーリーはクライマックス。


今まさにキスシーンが出ようというその瞬間。

小説には急に事務的な内容が書かれていた。



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▼これ以降の内容は動画で!

https://www.mytube.com/watch?v=xxxxxxxxx

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クリックした先の動画では恋愛シーンが堂々と流れていた。

ただし小説ではない。動画だ。


作者はドヤ顔で答えた。



「ね? 小説内で風営法違反はしていないでしょう!?」



なお書籍化の際には、URLではなくQRコードがプリントされ

読者をおおいに困惑の渦中にひきずりこむことになる。

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