第2話 現代の民話
「龍体、もうあきらめようよ」
「いやいやカタカムナ、まだまだですよ」
龍体と私は炎天下の街を歩いていた。
私はカタカムナ。龍体によって美少女に生まれ変わらせられた神代文字エッセンスだ。
龍体を相棒にして暮らしている。家にある鏡を見ると、そこには美少女、つまり私が写っていた。鏡を見て私はカタカムナに生まれ変わったと実感した。龍体はその時、後ろで笑みを浮かべていた。
「漢字以前からある私らがめげてはダメなのです」
龍体はそう言いながら足をとぼとぼと進めていた。髪の龍はへばって舌を出していた。
「龍体、今どき絵の訪問販売とか受けないよ」
「いえ、この"むく"と"つる"の字が入った絵画を必要とする人がきっといるはずなのです」
"むく"とは龍体文字で拡大するエネルギーで商売繁盛、"つる"は鳥の鶴が群れるように人を集める効果があると言われる。
ちなみに龍体文字の起源は約5600年前とされるが近世・近代の創作という説が強い。龍のエネルギーを秘めた文字であるがその彼女は今、怪しげな画商をしていた。今日も絵を買ってくれないか訪ね歩き、午前中は断れ続けていた。
「カタカムナ、ちょっとあそこの定食屋で休みましょう」
私も龍体もぜえぜえ言いながらクーラーが効いた店内に入りテーブルに座り込むとへばった。
「お水どうぞ」
気の良さそうな店主のおばちゃんがコップに入った水を二つテーブルに置いた。
私たちは水をごくごく飲み干して言った。
「からだ動かした後の水は美味しい!!」
私たちは蕎麦を頼んで食べた。
少しまわりを見渡して見るが自分たち以外お客がいなかった。
龍体がその時立ち上がった。
「私の絵をお役に立てるときが来た」
「え!?」
龍体は店主のとこに行き立ち話をはじめた。
そしてグッドサインを私に向けて私たちは会計を済ませて店をあとにした。
「すげえじゃん、龍体。絵売れたんだろ」
「まさかまさかのカタカムナ、売ってはいないよ」
「え?」
「置かしてもらっただけ」
龍体は話を続ける。
「美味しい蕎麦とお水のお礼によければ置かして下さいと言ったのです。きっと今日はそういう日なんだと思う」
私も髪の龍もうなづいた。
俺は後日『月刊ヒヒイロカネ』で龍体文字の絵画を飾ったらお店が繁盛したという体験談を読んだ。記事の署名は赤坂正司。って私!?
あいつ(私だけど)は何を書いているのだろう。
「謎の二人の女の子から貰った絵画でお店の景気が良くなった。これは現代の民話であるといえよう…」
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