16. 第一王子の湯殿
しばらくそうしていると、耳元で聞こえる水音とは違う、ザブザブとした音にハッとなる。
長髪を後ろに流した長身の男がやってきて、自分を見下ろしていた。逆光で見えないが、かなり立派な体格であることは窺える。
「くっ……!」
慌てて上体を起こした際に、くらりと視界が揺れ、再び湯に背を打ち付けると思って、反射で手を伸ばしたらぐっと強い力で捕まれた。
「腰の布が邪魔だな」
低いバリトン。
上半身を起こされたまま、目を見開いた俺の前に膝をついて屈んだのは、謁見の時に会った第一王子だった。
名前は、確か、ジオラルド。
長い金髪に琥珀色の瞳。第二王子と対照的な精悍な顔立ちだ。
「私の湯殿へようこそ、律殿」
「な、に……?」
私の湯殿? こいつのテリトリーってこと?
ここ、大浴場でも神殿でもなくて、こいつの部屋の風呂なのか!?
むちゃくちゃだろ。さすがは王族、スケールが違うな。道中に誰もいなかったから、誰かの部屋だって認識が無かったよ。ふわふわしたカーテンはあっても、扉で仕切られた場所も無かったから。
「わ、悪かった、あんたの部屋だって、わかってなくて……」
俺はジオラルドから目を反らす。
風呂なんだから当たり前だけど、こいつ裸だ。隠しもしないで堂々とされて戸惑う。
捕まれた腕を解こうとするが、そのまま掴んだ手を引かれる。口付けられそうになり、俺は反射で顔の前に掌を外に向けてガードした。
そんなに何回も奪われてたまるか!
「何、のつもりだっ……?」
「単刀直入に言おう。私の後宮に入らないか?」
拒絶されながら、全くめげない男はそうのたまった。
「!?」
バッと手を振り払う。
俺の頭の中が???で羅列される。
こいつ、今何て言った? 後宮!!?
第二王子もだが、綺麗な顔をしているんだから、選り取りだろうに。何でわざわざ男に走るかな!?
攻撃をしかけるわけでもなく、ただ距離を詰められ、王子ということもありその整った顔を殴るわけにもいかない。
「来るな……!」
威嚇するように叫ばれ、ジオラルドは笑みを深くする。
「そう警戒するな」
ぶん殴ることを躊躇していた自分を締め上げてやりたい。
ジオラルドは、俺の両手を片手に纏めて、床に縫い付けた。
「な、何をする気だ……!?」
何やら、愉しそうにじっと見下ろしてくる。
ヤバい、俺、襲われてる……? やっぱり、この国に来てから、知らないうちに女に見える呪いがかけられているんじゃないのか!?
「まさか、そんな見た目をしておきながら、男に抱かれたことが無いのか?」
「……っ、そんなの当たり前だろ!」
抱くことはあっても、抱かれるなんて絶対にない!
「その考えは改めた方がいい、お前を抱きたいと思う人間は、この世に星の数ほどいるだろう」
「な……!」
待て。俺、今、口に出して言ったか? まさか、心を……読まれた……?
驚愕しているうちに、まさにその通りだと肯定される。
「このエルトニア王国の皇族は特殊なスキルを持っている、私の能力は、人の心を読むことだ」
王族にしかない、特殊な力があるとは知っていた。
「常に覗いているわけではないが、こういった行為の時には興奮材料になるよ」
「変ッッ態!!」
口に出さなくても伝わるのなら、遠慮はいらない。
膝を立てて腰の剣を抜く体制を取るが、離れた場所に置いてあることを失念していた。
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